おいでよシナリオの森!

夢はヒーローもののライターです☆

課題「盗み」トーキング・ベル

    人 物

 

桶谷千尋(28)専業主婦

桶谷修士(31)千尋の夫

美堂恵子(24)千尋の友人

桶谷うらら(3)千尋の娘

美堂みのり(3)恵子の娘

 

 

〇桶谷の家・全景(夜)

 

〇同・ダイニングキッチン(夜)

   桶谷修士(31)がビールを飲みながら新聞

   を読んでいる。

   奥のキッチンで桶谷千尋(28)が調理して

   いる。

桶谷「うららはもう寝たのか」

千尋「ええ。今日はたくさん外で遊んだみたい」

桶谷「ふん」

   千尋がトレイに冷奴と枝豆を載せて運ん

   でくる。

桶谷「またこの組み合わせか。芸がないな」

千尋「仕方ないじゃない。安かったんだもの。

 もうこれくらいしか買えなかったのよ」

桶谷「何だよその言い方。まるで金が無いみた

 いじゃないか」

千尋「無いわよ」

桶谷「十分金は渡してるだろ。月に5万もだぞ」

千尋「食費だけならそれでもいいけど、生活す

 るには足りないのよ。他にどれだけお金がか

 かると思ってるの」

桶谷「お前のやりくりが下手なんじゃないのか。

 俺の先輩の家はそれで十分やっていけてる

 ぞ」

   千尋、桶谷から目を逸らしてキッチンへ

   向かおうとする。

   桶谷、千尋の腕を握る。

桶谷「待てよ、話は終わってないぞ」

千尋「なんですか」

桶谷「金が無いって言ったな、お前」

千尋「ええ」

桶谷「その割にはお前のバッグや靴、増えてな

 いか」

千尋「それは…独身時代の貯金で」

桶谷「そんなに蓄えあったのか?バイトばかり

 だったお前に」

   桶谷、スーツの上着から封書を出す。

   貸金業者からの封書。

   千尋、表情が強張る。

桶谷「これはなんだ」

   千尋、封書を取ろうとするが桶谷にかわ

   される。

桶谷「借金してまでバッグとか靴とか買って何

 するんだ。浮気でもする気か?」

千尋「そんなつもりはありません」

桶谷「じゃあどんなつもりだ。この借金にどん

 な正当な言い訳があるというんだ」

   千尋、答えない。

   桶谷、深いため息。

桶谷「…これじゃお前とは一緒にいられないな」

千尋「えっ」

桶谷「勝手に借金作ってくるような女と夫婦な

 んてやれないと言ってるんだ」

千尋「そんな。元はと言えばあなたが全然生活

 費をくれないから大変で、それでストレスが」

桶谷「俺のせいだというのか!」

   千尋、うつむく。

桶谷「5万だ。今週中に5万円用意しろ」

   千尋、不思議そうに桶谷を見る。

桶谷「妻が債務者だなんて体裁が悪いからな、

 こいつは俺が立て替えてやる。お前は俺に5

 万ずつでいいから返済するんだ。いいな」

千尋「…はい」

桶谷「一度でも滞れば離婚だ。うららは俺の方

 で育てるし、お前とは二度と会わせない。わ

 かったな」

   桶谷、部屋を出ていく。

   千尋、手の付いていない食卓を見つめる。

千尋「今週中に5万って…」

   壁に日めくりカレンダーがかかっている。

   5月25日水曜日。

   千尋、目を閉じる。

 

〇住宅街

   千尋と桶谷うらら(3)が手を繋いで歩い

   ている。

   うらら、前方を見て指差す。

うらら「あ!みのりちゃんいた!」

 

〇美堂の家・全景

   美堂恵子(24)と美堂みのり(3)が外に出て

   いる。

   千尋とうららに向かって手を振っている。

みのり「うららちゃーん!いらっしゃーい」

 

〇住宅街

   うらら、手を振り返して走っていく。

   千尋、慌てて追いかける。

 

〇美堂の家・リビング

   恵子、千尋を案内しながら入ってくる。

   うららとみのりが後から走ってくる。

恵子「どうぞ。好きなところに座ってて。今紅

 茶を淹れるから」

千尋「ごめんなさい、先にお手洗い借りていい

 かな」

恵子「どうぞ、場所わかる?」

千尋「うん、前にもお邪魔したから。ごめんね」

   千尋、足早にリビングを出ていく。

 

〇同・トイレの前

   千尋がやってくる。

   トイレのドアを見て、反対を見る。

   向かいの部屋のドアが開いている。

   部屋の奥に机や本棚が見える。

 

〇同・書斎

   机の上に財布や家の鍵が置いてある。

   財布には鈴が付いている。

   傍には本屋の紙袋。

   千尋が部屋の外から見ている。

 

〇同・トイレの前

   千尋、息をのむ。

   周囲を伺い、そっと書斎へ向かう。

 

〇同・トイレの前

   乱暴にドアが閉められる。

 

〇同・トイレの中。

   千尋が震える手で鍵をかける。

   便器に座るとポケットから財布を取り出

   す。

   鈴が鳴り、慌てて握る。

   財布を開く。

   カード入れに恵子の免許証が入っている。

   お札入れから紙幣を取り出し数える。

   一万円札が6枚、千円札が4枚。

   千円札を戻し、一万円札をもう一度数え

   る。

   千尋、枚数を数えて安堵のため息。

   一万円札を5枚ポケットに入れて、1枚

   を財布に戻す。

   財布を閉じる。

   鈴が鳴る。

 

〇同・リビング

   うららとみのりが遊んでいる。

   恵子、微笑んで見守っている。

   千尋が戻ってくる。

恵子「おかえり。遅かったね」

千尋「恵子さん、ごめん…私ちょっとお腹の調

 子悪いみたい」

恵子「え、大丈夫?」

千尋「うん、だから来たばっかりで悪いんだけ

 ど…帰るね。うらら、帰るよ」

うらら「えーやだー!」

みのり「やだー!」

千尋「わがまま言わないの」

うらら「やだー遊びたい!」

千尋「うらら!」

恵子「良かったら、後でうららちゃん送ろうか?

 家まで」

千尋「え、でも」

恵子「せっかく来たんだもの、みのりともっと

 遊んでほしいし。責任もって送り届けるから。

 千尋さんも、家でゆっくりした方がいいと思

 うからさ」

千尋「恵子さん…」

   恵子、優しく微笑んで千尋の背中を叩く。

千尋「わかった。お言葉に甘えるね」

恵子「うん。うららちゃんは任せて」

   千尋、うなずく。

〇同・玄関前

   千尋が出てくる。

千尋「お邪魔しました」

恵子の声「気を付けてね」

千尋「うん」

   千尋、手を振りつつ扉を閉める。

   ちゃんと閉まるのを確認すると駆け足で

   出ていく。

 

〇同・リビング

   窓の外を見る恵子。

   走り去っていく千尋の姿が見える。

   恵子、千尋をじっと見ている。

 

〇桶谷の家・全景

   千尋が走って帰ってくる。

 

〇同・玄関

   千尋が入ってくる。

   閉めた扉に背を預けて息を整える。

   ポケットからクシャクシャになった5万

   円を取り出す。

   ジッと見つめる。

   チャイムが鳴って驚く。

   慌ててお金をポケットに戻し、扉から離

   れる。

宅配員の声「お届け物でーす」

   千尋、ホッとした表情を浮かべる。

千尋「はーい」

   千尋、扉を開ける。

 

〇同・リビング(夜)

   千尋がソファに座っている。

   壁の時計は9時を指している。

   ローテーブルの上には封筒と宅配物。

   段ボールにはアマゾンのロゴ。

 

 

※「お金を盗む」は安易、みたいな感じに言われてしまいましたが、

(財布のお金じゃすぐばれるし)まぁこれはバレてからが本番的な話のつもりなので…