おいでよシナリオの森!

夢はヒーローもののライターです☆

課題「別れの一瞬」情熱と微熱

    人 物

溝内海斗(25)芸人志望

設楽涼雅(26)海斗の相方

工藤麻衣(25)海斗の同期

隅野絵梨佳(38)芸能事務所のスカウトマン

松岡優(44)ABCお笑いスクール講師

 

〇ABCお笑いスクール・練習室

   薄暗い練習室、一角だけに照明が当たっ

   ている。

   ミニストーブが赤く光っている。

   照明の真下、溝内海斗(25)と設楽涼雅(26)

   が並んで立ち漫才を練習している。

溝内「じゃあ俺客やるからな。…ウィーン」

設楽「(90度に腰を曲げ)っしゃぁせぇぇい」

溝内「ちょっと待て!高級レストランて言った

 だろ!」

設楽「だから深ーくお辞儀したんだけど」

溝内「勢い!どう考えても居酒屋じゃねぇか!」

   後ろから拍手の音がして振り返る。

   入口ドアに寄りかかって工藤麻衣(25)が

   拍手している。

麻衣「相変わらず練習熱心だねお二人さん」

設楽「麻衣ちゃん」

溝内「当り前だろ!俺たちみたいな凡人がM-1

 優勝の為にはどんだけ努力したって足りねぇ

 のよ。な、設楽」

設楽「ん、そうだな」

麻衣「私が思うに、君たちは漫才よりコントの

 が向いてると思うな。溝ちゃんには悪いけど」

溝内「コントぉ?」

麻衣「そう。普段からしゃべくりじゃない漫才

 やってるでしょ?物語ネタも多いし、きっと

 本格的なセット組んでやった方が見やすいし

 受けると思うの」

溝内「俺あんまりコント師知らないんだよ…設

 楽は?」

設楽「東京03とか超好きだよ。ネタも完成度

 高いし演技上手いしお勧め」

溝内「へえ」

設楽「ミゾ、どうする?やってみる?」

溝内「うーん、M-1的にはコント師に転向はち

 ょっと悩ましいとこだが…」

麻衣「試しに一回コントやってみてよ。結構ハ

 マる気がするよ?」

   渋い顔の溝内と笑顔でうなずく設楽。

 

〇同・講義室(夕)

松岡「うん、良くなったんじゃないの」

   松岡優(44)、笑顔でうなずく。

   机とソファ、本棚を置いた舞台に立つ溝

   内と設楽、会釈する。

   松岡の後ろ、体育座りで見物している麻

   衣と同期たち、拍手する。

溝内・設楽「ありがとうございます」

松岡「いつも導入から演技臭くてイマイチだっ

 たからねぇ。この方がスムーズに入れるしい

 いんじゃないかな。かなり見違えて見えるよ」

   溝内と設楽、笑顔でお互いを見る。

 

〇居酒屋「高笑い」前(夜)

   提灯が赤々と灯っている。

溝内・設楽「かんぱーい」

 

〇居酒屋「高笑い」店内(夜)

   賑わう店内。

   カウンターでビールジョッキを呷る溝内

   と設楽。

溝内「まさか松岡先生に誉めてもらえるとは!」

設楽「初めてじゃない?」

溝内「初めて初めて!いや~まさかこんなとこ

 に才能があったとは!」

設楽「麻衣ちゃんに感謝だな」

溝内「これからはコント頑張っちゃうか!」

設楽「でもいいの?M-1は」

溝内「設楽くん。世の中にはキングオブコント

 もあるのだよ。ご存じない?」

設楽「じゃあそっち狙っちゃいますか」

溝内「おうよ。来年には天下取ろうぜ!」

   溝内、設楽のジョッキに自分のジョッキ

   を打ち付ける。

設楽「じゃあもっと演技力磨かないとな。ミゾ

 に置いてかれる」

溝内「え、俺?別に演技上手くないけど」

設楽「ミゾのネタをしっかり表現できるように

 しなきゃ」

溝内「設楽…お前って奴は」

   笑いあう溝内と設楽。

 

〇アパート・設楽の部屋前

   蝉の声がうるさく鳴り響いている。

   Tシャツ姿の溝内が歩いてくる。

溝内「あっつ…」

   一番奥の部屋の扉をノックする。

溝内「設楽ーいるんだろ」

   チャイムを連打する。

溝内「設楽!最近変だぞお前!出て来いよ」

   ドアノブをガチャガチャ。

溝内「なぁ設楽ぁ暑いから入れてくれよ!」

   ドアが開き設楽が溝内の腕を引き入れる。

 

〇設楽の部屋

   俯いて部屋に入ってくる設楽、後に続く

   溝内。   

   段ボールが沢山あり引っ越し中の雰囲気。

溝内「お前引っ越すの?俺聞いてないけど。俺

 も引っ越そうかな」

   設楽、うつむいて応えない。

溝内「設楽?マジでどうした?そろそろKOC

 のエントリー〆切だからさ、色々決めたいこ

 とあんのに連絡取れないし」

設楽「そのことなんだけど」

溝内「うん?」

設楽「俺…スカウト受けたんだ。役者の」

溝内「…は?」

設楽「寮もあって、そっちでなら演技の勉強し

 ながら役者の仕事もらえるって」

溝内「ちょっ…役者って何?いきなりなんだよ

 それ芸人は?学校は?コンビは!?」

設楽「もう退学届出した。コンビは…ごめん」

   溝内、設楽を殴る。

   段ボールの上に倒れこむ設楽。

溝内「死ね!」

   溝内、大股で出ていく。

   倒れたままの設楽、電話をかける。

設楽「もしもし、設楽です…」

 

〇芸能事務所「青春」事務所

   隅野絵梨佳(38)が電話している。

設楽の声「例のお話、受けます」

絵梨佳「随分急なお返事だけど。ちゃんと話し

 合って決めたの?」

設楽の声「いいんです。俺のことで頭悩ますよ

 り彼には俺のこと切り離してサッサと次に行

 ってもらいたいんで。薄情な奴の方が切りや

 すいでしょ」

絵梨佳「ちょっとそれウチが悪者になってない

 でしょうね?二人が納得ならいいけれど」

設楽の声「(渇いた笑い)大丈夫ですよ、多分」

   絵梨佳、小さくため息。

絵梨佳「来週末迎えに行くわ。準備しといて」

 

〇設楽の部屋前(夕)

   設楽、リュックとキャリーバッグを持っ

   て電話しながら出てくる。

設楽「…はい、今出ます。来客用停めちゃって

 いいんで。…はい、すみません」

   電話を切り空っぽの部屋の扉を閉じる。

   廊下の奥、溝内が立っている。

設楽「ミゾ…」

   溝内、大股で歩いてくる。

   設楽、慌てて逃げようとする。

溝内「あれから全部未読無視かよ逃げんなバ

 カ!」

   溝内、設楽の襟を掴んで引き倒す。

設楽「いった…」

溝内「あー痛いだろうな!俺はこの前からずー

 っと心が痛いんだよ誰かさんのせいでな!」

設楽「危ないだろ手加減しろよ乱暴者!」

溝内「逃げなきゃやらなかったよ卑怯者!」

   設楽、立ち上がり階段へ向かう。

 

〇同・階段踊り場

   設楽、階段を下りていく。

溝内「新コンビ組んだ」

設楽「…そう」

溝内「お前より演技は大根だけど笑いのセンス

 はある奴だ」

   設楽、足を止める。

溝内「正直、あいつとならM-1もKOCも狙え

 ると思う。お前と解散して良かったわ。サン

 キュな、芸人やめてくれて」

   設楽、振り返る。

   溝内、涙目で設楽を見ている。

溝内「だからお前は心置きなく役者やれよ。解

 散できてせいせいしたわ」

   設楽、ゆっくりと階段を上がり溝内の前

   に立つ。

設楽「…その新しい相方に同情するよ」

   設楽、拳を前に出す。

   溝内、同じように拳を前に出す。

   グータッチ。

   互いに見つめあう。

   溝内、どんどん泣きそうになる。

   設楽、黙って見つめる。

   溝内、もう片方の手で設楽の腕を掴もう

   とする。

設楽「…ミゾ」

絵梨佳の声「設楽くん、まだなの?」

   ハッとして手を下ろす二人。

設楽「い、今行きますすみません!」

   文句を言いながら絵梨佳の声が遠ざかる。

   設楽、溝内を振り返る。

設楽「優勝するって信じてる」

溝内「…おう」

   設楽、荷物を持って階段を下り始める。

   溝内に背を向けて涙を流す。

   設楽の姿が見えなくなる。

   溝内、しゃがみ込み頭を抱える。

 

〇ABCお笑いスクール・練習室

   机に向かい熱心に台本を書いている溝内。

   配役が溝内・設楽のまま。

   スマホが鳴り、電話を取る。

溝内「…おぉ。悪い、やっぱまだ組めねぇわ。

 悪い、他当たって」   

   溝内、電話を切り再び書き始める。

 

★「別れの一瞬」ということで…真っ先に浮かんだのはやっぱり恋愛ものだったんですが前回もそうだったし、ということでこういう別れに。

芸人さんの相方問題って深いと思うんですよ。恋人でも家族でもない、でも一番近くにいて一番長く隣にいるという…。普通のビジネスパートナーよりも近い存在だし。