おいでよシナリオの森!

夢はヒーローもののライターです☆

課題「医者」僕のヒーロー

    人 物
植田雄基(26) 研修医
植田雄基(6) 小学生
鈴木和久(30) 植田の指導医
緑山昂(9)  小児科の患児
道明寺孝男(10) 小児科の患児
植田礼子(50) 植田の母親
道明寺孝一(6) 植田の同級生
長寺大輔(6)  植田の同級生植田雄基
 研修医二年目で小児科に配属中。
 気弱で引っ込み思案な性格で運動は苦手と典型的なインドア派。幼少期から勉強するかヒーロー番組を見ることしかしていなかったため、かなりのヒーローオタクで世間知らず。
 趣味はヒーロー番組鑑賞とオリジナルフィギュア製作。手先が器用なのでかなりの完成度を誇り界隈では結構有名。
 元々の性格と幼い頃に同級生のガキ大将が怖くて、そのトラウマのため、元気な子供が苦手。小児科の研修が憂鬱で早く第一志望の内科で働きたいと思っているが、趣味の影響で外科処置が天才的にうまく、外科から熱い目で見られている。
 基本的に前に出たがらないが正義への憧れは人一倍強く、とっさに大胆な行動へ出ることも。


〇児童公園(夕)
   T・2003年
   子どもたちが遊んでいる。
   植田雄基(6)がベンチに座ってマスクレ
   ンジャーの絵本を読んでいる。
   傍らにマスクレンジャーのソフビ人形。
   道明寺孝一(6)、長寺大輔(6)が駆け寄って
   くる。
   二人の服にひらがなの名札。
孝一「植田~サッカー入ってくれよ」
雄基「僕はいいよ」
大輔「えー一人足りないんだよ入れよ」
雄基「いいって」
孝一「外で何読んでんだよ」
   孝一、本を取り上げる。
孝一「マスクレンジャー!?うわー!お前まだこ
 んなの読んでんのかよ!お子様じゃーん」
雄基「か、返してよ!」
   雄基、手を伸ばすが孝一は返さない。
孝一「返してほしかったらこっちでサッカー
 な!」
   孝一と大輔、本を持ったまま広場へ走っ
   ていく。
   雄基、後を追って走る。
   すぐに転んでしまう。
大輔「なにやってんだよトロいな!」
   大輔、雄基に駆け寄って強引に腕を引い
   て立たせる。
大輔「はやくはやく!」
雄基「ま、まって」
   大輔、雄基を引きずって走る。
   雄基、必死についていく。
   ベンチを振り返る。足元にソフビ人形が
   落ちている。

〇植田の部屋(夕)
   T・2023年
   床に倒れているマスクレンジャーのリア
   ルなフィギュア。
   植田雄基(26)が拾い上げる。
   埃を払って棚の上のディスプレイボック
   スに飾る。
植田「よし」
   植田、部屋を見渡す。
   部屋中にフィギュアやプラモ、ホビー誌
   や漫画が散らばっている。
   机の上は医学書や参考書がある。
植田「許すまじ、震度3…」
   フィギュアや雑誌を拾い集め始める。
   乱暴にドアをノックする音。
礼子の声「すごい地震だったけど、雄ちゃん大
 丈夫だった?ケガしてない?」
植田「大丈夫。色々棚のものが落ちたくらいだ
 から」
礼子の声「そう?」
   足音が遠ざかる。
   植田、深いため息。
   もう一度部屋を見回す。
植田「今日中に終わるかな…」

〇天音総合病院・小児科(朝)

〇同・医局前(朝)
   私服の植田がドアの前に立っている。
   ポケットからマスクレンジャーの小さな
   ソフビ人形を取り出して両手で握る。
植田「今日も一日、平和に終わりますように」
   深呼吸してドアに手をかける。
鈴木「お祈りは終わりか?」
   植田の後ろに鈴木和久(30)がいる。
植田「す、鈴木先生!」
鈴木「おはようさん」
植田「お、おはようございます…」
   鈴木、ドアを開ける。
鈴木「患児のために用意してんのかと思ってた
 けど、お前さんのお守り替わりだったんだな、
 それ」
   植田、慌ててソフビを隠す。
鈴木「別にいいと思うぞ?ただ、無くさないこ
 とと衛生面には気を配っとけよ」
植田「は、はい」
鈴木「よし。ほら入れ。着替えたら申し送り受
 けに行くぞ」
植田「はい」
   植田、駆け足で入る。

〇同・医局(朝)
   植田、鈴木の指導を受けながら電子カル
   テをチェック。
   指導を聞きながら胸ポケットからメモ帳
   を取り出す。
   ソフビが転がり出て慌てて拾い上げ鈴木
   に頭を下げる。

〇同・廊下(朝)
   植田の前を鈴木が歩いていく。
鈴木「回診自体は初めてじゃないだろ?」
植田「はい。内科系を回った時に一通り」
鈴木「ここは小児科だ。当然、入院患者は全員
 未成年…こどもだ。大人とは違うってことを
 よく頭に入れておけよ」
植田「わ…わかってます」
鈴木「そんなに深刻な顔することないさ。なに、
 君ならすぐにこどもと仲良くなれるんじゃな
 いか?」
   鈴木、植田の胸ポケットを指で突く。
鈴木「おはようみんな~調子はどうかな?」
   病室に入っていく鈴木。
   植田、胸ポケットをそっと掴む。

〇同・病室(朝)
   鈴木、緑山昂(9)と仲良く話しながら診察
   している。
   植田、強張った顔で様子を見ている。
   昴、植田を見る。
昴「ねー鈴木先生。このおじさん誰?」
鈴木「おじさんじゃないよ、植田先生。今小児
 科の勉強中なんだよ」
   鈴木、植田にアイコンタクト。
   植田、慌てて昴に近づく。
植田「は、はじめまして植田です。一ケ月とい
 う短い期間ですがどうぞよろしく…」
昴「ねー、それ笑ってるつもり?顔怖いよ」
鈴木「こら、そういうこと言わない。ちょっと
 血もらうね。植田先生、採血よろしく」
植田「は…はい」
   植田、昴の採血を始める。
   ルートを取る指が震えている。
   鈴木、後ろで見守っている。
昴「ねー。この人めっちゃブルブルしてんだけ
 ど。ホントに大丈夫?」
植田「だ、大丈夫だよ。大丈夫…」
昴「痛くしない?失敗しない?」
   植田、胸ポケットをギュッと掴む。
植田「うん…まかせて」
   植田、なんとか採血に成功。
   植田と昴、同時に溜息。

〇同・廊下(朝)
   植田、鈴木に頭を下げる。
植田「手間取って申し訳ございません」
鈴木「いいよ。無事一回で採血できたし。それ
 より…植田先生、こども苦手?もしかして」
植田「え、ええまぁ」
鈴木「やっぱりそうなんだ。そんなの持ってる
 からてっきりこどもが好きなんだと思ってた
 よ」
植田「ヒーローは大人ですから」
鈴木「確かに役者は大人だな。さ、次だ」
   鈴木、病室へ入っていく。
   植田、名札を見る。
   「道明寺孝男」
植田「どうみょうじ…」
   植田、慌てて病室へ入る。

〇同・病室(朝)
   ベッドの上に起き上がっている孝男、ベ
   ッドサイドに立つ鈴木が振り返る。
   植田、孝男を見て硬直。
   孝男と孝一の姿が重なって見える。
植田「道明寺…孝一…」
孝男「何?この人」
植田「あ、いやその…」
鈴木「孝男くん、今朝の具合はどう?」
   鈴木、診察を始める。
   孝男、目線を逸らす。
孝男「別に変わらない」
鈴木「今朝もご飯残したんだって?ちゃんと食 
 べなきゃだめだよ」
孝男「薬は飲んだんだからいいじゃん」
鈴木「ふむ…。植田先生」
植田「は、はい」
鈴木「採血を」
植田「え」
   鈴木と孝男、植田を見る。
   植田、胸ポケットをギュッと握る。
植田「はい」
   植田、採血の用意を始める。
   孝男、目線を合わせない。
   植田、おそるおそる孝男の腕を取る。
   植田、ぎこちない手つき。
   孝男、植田を見る。
   植田の胸ポケットからソフビが覗いてい
   る。
孝男「あーっ!」
   植田と鈴木、ビックリ。
植田「え?」
孝男「それ!見せて」
   植田、胸ポケットからソフビを取り出し
   て孝男に渡す。
   孝男、ソフビを見て笑顔。
孝男「わぁーっ!マスクレンジャーだ!」
植田「え、し、知ってるの?」
孝男「うん!パパから教えてもらったんだ!か
 っこいいよねー!先生も好きなの?」
植田「え、君のお父さんも…?」
孝男「うん!」
   孝男、ソフビを眺めている。
   植田、笑顔で孝男の腕を取る。

 

 

★実はシナセンのガンバリストに選出していただいた作品でもあります♪

 以前選んでいただいた時も台詞絡みでした

 どーでもいいノリの台詞に定評がある私です(笑)

課題「刑事」わっぱ!

    人 物

松本清次(5)、(25)新人刑事

二葉明(28)松本の先輩

織田道長(40)強盗犯

松本幸一(36)清次の父親

時尾涼香(27)松本の同僚

安住良子(42)一般住民

辻野里香(30)コンビニオーナーの妻
松本清

交番勤務から捜査一課に配属になったばかりの新人刑事。

既に他界した父親も捜査一課の刑事。彼から学んだことを胸に抱き日々を過ごす正義の塊の熱血漢で、非常に縦社会に厳しく礼儀を忘れないザ・体育会系。

交番勤務時代に近所のコンビニで悪漢を倒した縁でコンビニオーナーの辻野里香と親しくなるが彼女が既婚者のため告白できず切ない思いを抱えている。

母とその兄と三人で暮らしているが、ゲイで自由人の伯父とは非常に良好な関係。なんでも話せると思っている。

父親が強盗犯に刺され殉職してしまう現場を目撃しており、内心ではその犯人に今でも深い憎悪を抱き、敵を取ることが目標。

しかしその目的の前には我を忘れてしまう危うさがある。

 

 

〇児童公園入口・20年前(夜)

   パトカーや救急車がサイレンを鳴らして

   急行してくる。

 

〇同・トイレの前(夜)

   松本清次(5)が足を投げ出し座っている。

   茫然と正面を見つめている。

   織田道長(20)が走り去っていく。うなじ

   には大きな痣。

   清次の前、うつぶせで松本幸一(36)が倒

   れている。

   周りには黒い財布と散らばった小銭、警

   察手帳。  

   幸一の背中の服は何か所も裂け、血で真

   っ赤に染まっている。

   背中の中心にナイフが刺さっている。

救急隊員の声「君!大丈夫かい」

   救急隊員が清次に駆け寄る。

   清次、応えずずっと幸一を見ている。

   他の救急隊員が幸一を担架で運んでいく。

   幸一の手が揺れている。

   警察が無線で連絡を取っている。

   清次、ジッと見つめている。

清次(M)「お父さん…!」

   清次、両手を強く握り締める。 

 

〇警視庁・捜査一課オフィス・現代

   松本清次(25)、大きな体を丸めて机に突

   っ伏して寝ている。

   その拳は強く握られている。

二葉の声「おい。起きろ新人」

   二葉明(28)の細い腕が松本の肩を揺らす。

   一向に起きない松本。

松本「うぅ…(うなされている)」

   二葉、呆れた様子で松本を見ている。

   時尾涼香(27)、二葉の横から覗き込む。

   二葉、手に持っている捜査資料のファイ

   ルを縦に振り上げる。

   涼香、慌てて止める。

   二葉、不満げにファイルを横に持ち替え

   る。

   涼香、首を横に振る。

涼香「それもノーです」

   二葉、大きくため息を吐く。

   松本の耳元に顔を近づける。

二葉「松本くん、お・き・て」

   二葉、松本の耳に息を吹きかける。

   松本、目を見開きものすごい勢いで起き

   上がる。

松本「え?え?」

   真っ赤な顔で後ろを見る松本。

   二葉と涼香が立っている。

松本「え、今の、耳…。時尾先輩が?」

二葉「ざんねーん、俺様の吐息でした、このド

 アホ」

松本「えー!」

   松本、必死で耳を拭う。

二葉「新人のくせに堂々と居眠りとはいい度胸

 だな?」

   松本、一瞬の間の後、慌てて立ち上がり

   頭を深く下げる。

松本「し、失礼しました!」

二葉「わかればいいんだ。付き合え、新人」

松本「はい!」

   二葉、松本の後頭部を軽く叩いて歩き出

   す。 

松本「待ってくださいよ二葉先輩っ」

   松本、慌てて後を追う。

   涼香、見送りつつ笑う。

涼香「飼い主と大型犬みたい」

 

〇住宅街・赤い屋根の家・玄関

   二葉、住人の安住良子(42)に頭を下げる。

二葉「どうも、ご協力ありがとうございました」

良子「ご苦労様です」

   松本、勢いよく頭を下げる。

松本「ありがとうございましたっ!」

   大声に驚く二葉と良子。

   二葉、慌てて松本の首根っこを掴む。

二葉「こら!ど、どうも失礼しました」

   二葉、爽やかな笑顔を見せつつ松本を強

   引に連れて出ていく。

 

〇同・道路

   二葉、強引に松本を連れて歩き出す。

松本「痛い、痛いですよ先輩っ」

二葉「お前なぁ、恥ずかしくないのか」

松本「何がですか。捜査にご協力いただいたか

 ら心からの感謝をお伝えしただけですが?」

二葉「感謝するのは構わん。だが時と場所を考

 えろ。こんな住宅地で、お前の野太いデカい

 声が響いたら近隣住民の方がビックリするだ

 ろうが」

松本「あっ」

二葉「礼儀正しいのもいいがな、もっと周囲に

 気を…」

   松本、深々と頭を下げる。

松本「申し訳ございませんでしたっ!」

   二葉、慌てて松本の頭をげんこつで殴る。

二葉「だからそれをやめろって!」

   松本、ハッと気づいて照れ笑い。

   二葉、呆れながら先を歩く。

二葉「はぁ。お前みたいなタイプ疲れるわ。さ

 っさとコンビ解消したいぜ」

   松本、笑顔で二葉を追う。

松本「そんなこと言って。いつも丁寧に指導し

 てくださるじゃないですか。自分のこと、結

 構好きじゃないですか?」

二葉「あほ。さっさと一人前になってくれりゃ

 離れられるからだよ。俺のためだ、俺の」

   松本、悲しい顔で立ち止まる。

松本「そんな、先輩…」

   二葉、振り返る。

   松本、悲しそうに俯き立ち尽くしている。

二葉「行くぞ。聞き込みついでにコーヒー買っ

 てやるから」

   松本、笑顔で顔を上げる。

松本「はい!」

   二葉の隣に駆け寄る松本。

   二葉、苦笑しつつ歩き出す。

松本「先輩、自分お勧めのコンビニあるんです

 けど」

二葉「お勧め?」

 

〇コンビニ

   辻野里香(30)がレジ業務を行っている。

   雑誌を立ち読みしている青年。

   スイーツコーナーで談笑する高校生カッ

   プル。

   ドリンクコーナーに立つ織田道長(40)

 

〇同・店外

   二葉と松本が歩いてくる。

二葉「ここか?」

松本「はい」

二葉「聞き込みできりゃなんでもいいが…どこ

 にでもあるようなコンビニじゃないのか?」

松本「自分、交番勤務時代からの行きつけです」

   松本、笑顔で入っていく。

 

〇同・店内

   松本、二葉が入ってくる。

   レジにいた里香、松本を見て笑顔。

里香「あら、松本くん!久しぶりじゃない」

松本「ご無沙汰してます」

里香「(バックヤードに)ごめん、レジお願い。

 (松本に)最近来てくれないから寂しかった

 よ?」

松本「いやぁ…」

   松本、恥ずかしそうに頭を掻く。

   二葉、何かに気付いてニヤリ。

二葉「そういうことか」

松本「そ、そういうんじゃないです!この店の

 コーヒーは他のコンビニよりも美味しくて、

 それで」

二葉「はいはいそういうことにしとくよ」

松本「せ、先輩」

里香「それで今日は何買いに来たの?お昼ご飯

 には早いわよね」

松本「あ、いや今日は仕事で来たんです。自分

 今は捜査一課に配属されてまして」

里香「えっじゃあ刑事さんなの?お巡りさんじ

 ゃなくて?あらぁすごいじゃない!」

   織田、里香の大きな声に動揺し振り返る。

里香「そういえばよく刑事になりたいって話し

 てたものね?おめでとう!」

松本「ありがとうございます」

二葉「すみません、それでちょっとお聞きした

 いことがありまして」

里香「あ、はい。どうぞ」

   二葉、胸から警察手帳を取り出し開く。

   織田、ドリンクの扉を閉じて帽子を深く

   被り早足で店内出口へ向かう。

   織田、松本と二葉の後ろをすり抜けよう

   とする。

松本「あ、すみません」

   松本、織田に気付き横にずれる。

   織田、会釈しつつ出ていこうとする。

   松本、織田を目で追う。

   織田のうなじに大きな痣がある。

   松本、目を見開く。

   織田、店を出ていく。

松本「てめえっ」

   松本、織田を追う。

二葉「お、おい!?」

 

〇同・店外

   織田、走って出てくる。

   松本、鬼の形相で出てくる。

松本「おい待ちやがれ!」

   織田、驚いて逃げ出す。

   松本、思い切りタックルして織田ごと倒

   れこむ。

織田「ひいいっ!」

   松本、織田の首を抑え込む。

松本「お前…とうとう見つけた、見つけたぞ!」

   織田、苦し気に暴れる。

   二葉と里香、出てくる。

二葉「おい、松本!お前何してるんだ!」

   二葉、松本の肩を掴む。   

 

 

 

課題「記者」マスカレイド

    人 物
工藤里緒菜(23)芸能記者
水森ケイト(25)「SMASH」のメンバー
土田シオン(23)「SMASH」のメンバー
美薗麗華(33)女優
楠田拓郎(35)里緒菜の先輩
玉森英子(35)「SMASH」のマネージャー

 

 

〇芸能事務所「青空興業」前
   多数の記者、カメラマンが集まっている。
   リポーターたちがそれぞれのカメラに向
   かってしゃべっている。
   人だかりの中、小柄な工藤里緒菜(23)が
   レコーダー片手に入口を凝視している。
リポーター「えー、こちら青空興業前です。ご
 覧の通り、多くの報道陣が詰めかけています
 が事務所の中は静まり返っています」
   里緒菜、隙間を縫って集団の一番前まで
   出ていく。
   「SMASH」のステッカーが貼られたスマホ
   のカメラを起動して胸ポケットに入れる。
里緒菜「こい…こい…」
   事務所からスーツ姿の男性3人と疲れた
   表情の美薗麗華(33)がうつむいて出てく
   る。
リポーター「あっ来ました!美薗麗華さんが事
 務所から出てきました!随分暗い表情です!
 反省なさっているということでしょうか!」
   里緒菜、人だかりに押されながら前に出
   る。
里緒菜「美薗さん!お話お聞かせください!噂
 は本当なんですか!薬物疑惑って本当なんで
 すか!」
   麗華、入口で立ち止まり、深々と頭を下
   げると去っていく。
報道陣「美薗さん!」
報道陣「麗華さーん!逃げるんですか!」
   警備員が報道陣を押さえる。
   里緒菜、警備員の隙間を抜ける。
里緒菜「美薗さーん!『愛の保存食』大好きで
 した!応援してまーす!」
   麗華、振り返って会釈する。
   途端フラッシュが多数炊かれる。
   麗華、男性に促されて去っていく。

〇雑誌「SNOW」編集部
   里緒菜、パソコンを見ている。
   画面には麗華を取材した時の映像。
   頭を下げる麗華、振り返って会釈する麗
   華がちゃんと映っている。
   里緒菜、満足げに眺めている。
   楠田拓郎(35)が後ろを通りながらパソコ
   ンの画面を覗き込む。
楠田「美薗麗華の取材行ってきたのか。何か話
 してたか?」
里緒菜「美薗さん、美人ですよねぇ…こーんな
 に疲れていても華があるっていうか。派手派
 手しい芸名に全然負けてませんよ」
楠田「こら。ただのファンやってんじゃない。
 ちゃんと情報手に入れて来いよ」
里緒菜「わかってますよぉ」
楠田「お、この表情はいいな。うまく撮れてる」
   楠田、会釈する麗華を指す。
里緒菜「いいでしょ」
楠田「これに見合うだけの記事も書けよ」
里緒菜「はいはい。ちゃんと取材してきますよ。
 任せてください」
楠田「やる気だけは一丁前だな。若いのに珍し
 い奴だ。普通来たがらんぞ、この部署」
里緒菜「芸能人に会うには手っ取り早いじゃな
 いですか」
楠田「良くも悪くも、な」
   里緒菜の携帯アラームが鳴る。
里緒菜「おっと…もう行かなきゃ」
   里緒菜、パソコンを閉じて立ち上がる。
楠田「取材か」
里緒菜「そうでーす」
   里緒菜、鞄を抱え鼻歌を歌いながら出て
   いく。
   「SMASH」のキーホルダーが揺れる。
楠田「なんだ?」

〇東京ドーム・全景
   あちこちにアイドルグループ「SMASH
   のポスターが貼られている。
   ドームツアー開催決定!の文字。
   あちこちにウチワやサイリウムを持った
   女性ファンが立っている。

〇同・廊下
   スタッフ入館証を首から下げ、片手にス
   マホを持った里緒菜が鼻歌を歌いながら
   歩いている。
   片耳にはイヤホン。
   スマホで「SMASH」の楽曲を再生してい   
   る。
   コンサートスタッフとすれ違う。
里緒菜「お疲れ様でーす!」

〇同・控室A
   里緒菜、入ってくる。
   荷物を机に置いてボイスレコーダー、ノ
   ート、筆記具を取り出す。
   椅子に座り入館証をまじまじと見つめる。
里緒菜「SMASHのスタッフ入館証…まさかこん
 な日が来るなんてぇ」
   入館証にキスしようとする里緒菜。
   ノック音がして慌てて直る。
里緒菜「は、はい!」
   険しい表情で玉森英子(35)が入ってくる。
英子「失礼します。あなたがSNOWさん?」
里緒菜「は、はい。記者の工藤里緒菜です」
   里緒菜、慌てて駆け寄り名刺を差し出す。
英子「挨拶は結構です。ごめんなさいね、ちょ
 っとリハで揉めてるから、もう少しこちらで
 待機していただけるかしら」
里緒菜「あ、はい。構いませんが」
英子「それでは。取材可能になりましたら呼び
 ますんで」
   英子、会釈して出ていく。
   里緒菜、名刺を差し出した姿勢のまま見
   送る。
里緒菜「…超慌ただしー…これが本番前ってこ
 とか」
   里緒菜、椅子に戻ろうとして入口を見る。
里緒菜「今、リハ中ってことよね」
   カメラを鞄から出して首にかけ、ドアを
   そっと開ける。

〇同・廊下
   スタッフが慌ただしく走りまわっている。
   英子が一人のスタッフと話している。
   話し終えて足早に歩き出す。
   ドアの陰から覗いていた里緒菜、英子の
   後を追う。

〇同・ホール
   「SMASH」の楽曲が流れる中、会場の設
   営準備が進んでいる。
   舞台上、「SMASH」のメンバーがダンスの
   練習をしている。
   英子、スタッフに指示を出している。
   水森ケイト(25)がセンターに立ち踊って
   いる。

〇同・舞台裏
   里緒菜、そっと入ってくる。
   音に気付き舞台袖から舞台を見る。
里緒菜「わぁ」
   カメラを構え写真を撮る。
里緒菜「ヤバいわ、ケイトくん超素敵…!」

〇同・ホール
   ダンスを続けている「SMASH
   水森、急にダンスを止める。
   勢いで土田シオン(23)がぶつかる。
土田「え、ケイト?」
   水森、舞台袖に向かって歩く。
   英子、舞台を見る。
   水森、舞台袖のカーテンをまくる。
   カメラを構えていた里緒菜、驚いて水森
   を見る。
里緒菜「あっ」
水森「なんだアンタ」
英子「え、あなたなんでここに」
里緒菜「す、すみません!あの、私つい…すみ
 ません、戻ります!」
   里緒菜、戻ろうとする。
   水森、里緒菜のカメラを掴む。
   里緒菜、振り返る。
   水森、カメラを里緒菜から取り上げると
   床に叩きつける。
里緒菜「ああっ!」
英子「ちょっと、ケイト!?」
水森「あんた、何者?追っかけ?ストーカー?」
里緒菜「違います!私はSNOWという雑誌の
 記者です!ほら」
   里緒菜、入館証を見せる。
水森「ふーん。そういやライブ前に取材がある
 って言ってたっけ」
里緒菜「そうです。その取材で来たんです」
水森「マネージャー取材キャンセルでよろしく」
里緒菜「は!?どうしてですか!」
水森「盗撮女の取材なんか受けたくないからだ
 よ常識だろう」
里緒菜「勝手にここまで来たのは確かに失礼な
 ことをしましたけれど、それと取材の件は別
 物です!そうでないと困ります!」
水森「別にあんたが困っても俺は困らないし」
   水森、舞台に戻っていく。
   英子、慌てて水森に駆け寄る。
英子「ちょ、ちょっと待ってケイト」
水森「俺たちリハの続きあるんで、後はよろし
 く。マネージャー」
   英子、里緒菜に近づく。
英子「とりあえず部屋に戻ってくれる?」
里緒菜「すみません、私が悪いことはわかって
 いますが取材は…」
英子「なるべく善処するから。とりあえず戻っ
 てください」
   英子、里緒菜の背中を押して追いやる。
英子「(舞台に)さあ、リハを続けましょう」
   里緒菜、出ていく。

〇同・控室A
   里緒菜、入ってきてすぐ座り込む。
里緒菜「何やってるんだろう私」
   壊れたカメラを握り締める。

 

★職業シリーズが始まりました。

 初っ端から記者とか、なかなか慣れないお題で苦労しました…!

課題「別れの一瞬」情熱と微熱

    人 物

溝内海斗(25)芸人志望

設楽涼雅(26)海斗の相方

工藤麻衣(25)海斗の同期

隅野絵梨佳(38)芸能事務所のスカウトマン

松岡優(44)ABCお笑いスクール講師

 

〇ABCお笑いスクール・練習室

   薄暗い練習室、一角だけに照明が当たっ

   ている。

   ミニストーブが赤く光っている。

   照明の真下、溝内海斗(25)と設楽涼雅(26)

   が並んで立ち漫才を練習している。

溝内「じゃあ俺客やるからな。…ウィーン」

設楽「(90度に腰を曲げ)っしゃぁせぇぇい」

溝内「ちょっと待て!高級レストランて言った

 だろ!」

設楽「だから深ーくお辞儀したんだけど」

溝内「勢い!どう考えても居酒屋じゃねぇか!」

   後ろから拍手の音がして振り返る。

   入口ドアに寄りかかって工藤麻衣(25)が

   拍手している。

麻衣「相変わらず練習熱心だねお二人さん」

設楽「麻衣ちゃん」

溝内「当り前だろ!俺たちみたいな凡人がM-1

 優勝の為にはどんだけ努力したって足りねぇ

 のよ。な、設楽」

設楽「ん、そうだな」

麻衣「私が思うに、君たちは漫才よりコントの

 が向いてると思うな。溝ちゃんには悪いけど」

溝内「コントぉ?」

麻衣「そう。普段からしゃべくりじゃない漫才

 やってるでしょ?物語ネタも多いし、きっと

 本格的なセット組んでやった方が見やすいし

 受けると思うの」

溝内「俺あんまりコント師知らないんだよ…設

 楽は?」

設楽「東京03とか超好きだよ。ネタも完成度

 高いし演技上手いしお勧め」

溝内「へえ」

設楽「ミゾ、どうする?やってみる?」

溝内「うーん、M-1的にはコント師に転向はち

 ょっと悩ましいとこだが…」

麻衣「試しに一回コントやってみてよ。結構ハ

 マる気がするよ?」

   渋い顔の溝内と笑顔でうなずく設楽。

 

〇同・講義室(夕)

松岡「うん、良くなったんじゃないの」

   松岡優(44)、笑顔でうなずく。

   机とソファ、本棚を置いた舞台に立つ溝

   内と設楽、会釈する。

   松岡の後ろ、体育座りで見物している麻

   衣と同期たち、拍手する。

溝内・設楽「ありがとうございます」

松岡「いつも導入から演技臭くてイマイチだっ

 たからねぇ。この方がスムーズに入れるしい

 いんじゃないかな。かなり見違えて見えるよ」

   溝内と設楽、笑顔でお互いを見る。

 

〇居酒屋「高笑い」前(夜)

   提灯が赤々と灯っている。

溝内・設楽「かんぱーい」

 

〇居酒屋「高笑い」店内(夜)

   賑わう店内。

   カウンターでビールジョッキを呷る溝内

   と設楽。

溝内「まさか松岡先生に誉めてもらえるとは!」

設楽「初めてじゃない?」

溝内「初めて初めて!いや~まさかこんなとこ

 に才能があったとは!」

設楽「麻衣ちゃんに感謝だな」

溝内「これからはコント頑張っちゃうか!」

設楽「でもいいの?M-1は」

溝内「設楽くん。世の中にはキングオブコント

 もあるのだよ。ご存じない?」

設楽「じゃあそっち狙っちゃいますか」

溝内「おうよ。来年には天下取ろうぜ!」

   溝内、設楽のジョッキに自分のジョッキ

   を打ち付ける。

設楽「じゃあもっと演技力磨かないとな。ミゾ

 に置いてかれる」

溝内「え、俺?別に演技上手くないけど」

設楽「ミゾのネタをしっかり表現できるように

 しなきゃ」

溝内「設楽…お前って奴は」

   笑いあう溝内と設楽。

 

〇アパート・設楽の部屋前

   蝉の声がうるさく鳴り響いている。

   Tシャツ姿の溝内が歩いてくる。

溝内「あっつ…」

   一番奥の部屋の扉をノックする。

溝内「設楽ーいるんだろ」

   チャイムを連打する。

溝内「設楽!最近変だぞお前!出て来いよ」

   ドアノブをガチャガチャ。

溝内「なぁ設楽ぁ暑いから入れてくれよ!」

   ドアが開き設楽が溝内の腕を引き入れる。

 

〇設楽の部屋

   俯いて部屋に入ってくる設楽、後に続く

   溝内。   

   段ボールが沢山あり引っ越し中の雰囲気。

溝内「お前引っ越すの?俺聞いてないけど。俺

 も引っ越そうかな」

   設楽、うつむいて応えない。

溝内「設楽?マジでどうした?そろそろKOC

 のエントリー〆切だからさ、色々決めたいこ

 とあんのに連絡取れないし」

設楽「そのことなんだけど」

溝内「うん?」

設楽「俺…スカウト受けたんだ。役者の」

溝内「…は?」

設楽「寮もあって、そっちでなら演技の勉強し

 ながら役者の仕事もらえるって」

溝内「ちょっ…役者って何?いきなりなんだよ

 それ芸人は?学校は?コンビは!?」

設楽「もう退学届出した。コンビは…ごめん」

   溝内、設楽を殴る。

   段ボールの上に倒れこむ設楽。

溝内「死ね!」

   溝内、大股で出ていく。

   倒れたままの設楽、電話をかける。

設楽「もしもし、設楽です…」

 

〇芸能事務所「青春」事務所

   隅野絵梨佳(38)が電話している。

設楽の声「例のお話、受けます」

絵梨佳「随分急なお返事だけど。ちゃんと話し

 合って決めたの?」

設楽の声「いいんです。俺のことで頭悩ますよ

 り彼には俺のこと切り離してサッサと次に行

 ってもらいたいんで。薄情な奴の方が切りや

 すいでしょ」

絵梨佳「ちょっとそれウチが悪者になってない

 でしょうね?二人が納得ならいいけれど」

設楽の声「(渇いた笑い)大丈夫ですよ、多分」

   絵梨佳、小さくため息。

絵梨佳「来週末迎えに行くわ。準備しといて」

 

〇設楽の部屋前(夕)

   設楽、リュックとキャリーバッグを持っ

   て電話しながら出てくる。

設楽「…はい、今出ます。来客用停めちゃって

 いいんで。…はい、すみません」

   電話を切り空っぽの部屋の扉を閉じる。

   廊下の奥、溝内が立っている。

設楽「ミゾ…」

   溝内、大股で歩いてくる。

   設楽、慌てて逃げようとする。

溝内「あれから全部未読無視かよ逃げんなバ

 カ!」

   溝内、設楽の襟を掴んで引き倒す。

設楽「いった…」

溝内「あー痛いだろうな!俺はこの前からずー

 っと心が痛いんだよ誰かさんのせいでな!」

設楽「危ないだろ手加減しろよ乱暴者!」

溝内「逃げなきゃやらなかったよ卑怯者!」

   設楽、立ち上がり階段へ向かう。

 

〇同・階段踊り場

   設楽、階段を下りていく。

溝内「新コンビ組んだ」

設楽「…そう」

溝内「お前より演技は大根だけど笑いのセンス

 はある奴だ」

   設楽、足を止める。

溝内「正直、あいつとならM-1もKOCも狙え

 ると思う。お前と解散して良かったわ。サン

 キュな、芸人やめてくれて」

   設楽、振り返る。

   溝内、涙目で設楽を見ている。

溝内「だからお前は心置きなく役者やれよ。解

 散できてせいせいしたわ」

   設楽、ゆっくりと階段を上がり溝内の前

   に立つ。

設楽「…その新しい相方に同情するよ」

   設楽、拳を前に出す。

   溝内、同じように拳を前に出す。

   グータッチ。

   互いに見つめあう。

   溝内、どんどん泣きそうになる。

   設楽、黙って見つめる。

   溝内、もう片方の手で設楽の腕を掴もう

   とする。

設楽「…ミゾ」

絵梨佳の声「設楽くん、まだなの?」

   ハッとして手を下ろす二人。

設楽「い、今行きますすみません!」

   文句を言いながら絵梨佳の声が遠ざかる。

   設楽、溝内を振り返る。

設楽「優勝するって信じてる」

溝内「…おう」

   設楽、荷物を持って階段を下り始める。

   溝内に背を向けて涙を流す。

   設楽の姿が見えなくなる。

   溝内、しゃがみ込み頭を抱える。

 

〇ABCお笑いスクール・練習室

   机に向かい熱心に台本を書いている溝内。

   配役が溝内・設楽のまま。

   スマホが鳴り、電話を取る。

溝内「…おぉ。悪い、やっぱまだ組めねぇわ。

 悪い、他当たって」   

   溝内、電話を切り再び書き始める。

 

★「別れの一瞬」ということで…真っ先に浮かんだのはやっぱり恋愛ものだったんですが前回もそうだったし、ということでこういう別れに。

芸人さんの相方問題って深いと思うんですよ。恋人でも家族でもない、でも一番近くにいて一番長く隣にいるという…。普通のビジネスパートナーよりも近い存在だし。

 

課題「愛する一瞬」サウンド・オブ・ホーム

    人 物
六道映理(25)契約社員
和田誠(27)正社員
 

〇株式会社ダイアホーム・企画部
   ゴタゴタした社内に電話が鳴り響く。
   社員たちが忙しそうに働いている。
   壁の成績表、大和田誠がトップになって
   いる。
   六道映理(25)が電話を取る。
映理「はい、ダイアホーム企画部・六道が承り
 ます…はい、お世話になっております」
   向かいの席に携帯で話しながら大和田誠
   (27)が戻ってくる。
大和田「それでは失礼します(電話を切る)」
   映理、大和田を見る。
映理「あ、はい。その件でしたら、…えぇ、少々
 お待ちくださいませ」
   映理、電話を保留にする。
映理「大和田さん、1番に榊建設の田村さん」
大和田「あ、ありがと…」
   大和田、映理に笑顔を向けかけてからハ
   ッとして目を逸らす。
大和田「ご苦労」
   映理、言葉に詰まる。
大和田「(電話に出て)どうも田村課長!お待た
 せいたしました!先日の件でしょうか」
   にこやかに話す大和田。
   映理、大和田を見つめて頬を膨らませる。
映理「なーにが『ご苦労』よ」
   大和田を睨みつけ、舌を出す映理。
   視線に気づいた大和田、映理の顔に驚く。
   電話が鳴り、すました顔で映理が出る。
映理「はい、ダイアホーム企画部・六道が承り
 ます…はい、お世話になっております」
   大和田、映理を睨みつける。

〇同・会議室前
   ドアに「使用中」の札がかかっている。
大和田の声「さっきのはなんだお前」

〇同・会議室
   大和田、資料の束を前に仁王立ち。
   映理、資料を一部ずつ分けて製本作業。
大和田「俺が真面目に仕事の電話をしている時
 に邪魔するような真似して。これだから仕事
 に真剣さが足りない契約社員は嫌なんだ」
映理「わざわざ相手が私だからって態度変える
 ようなマネすることのどこが真面目なんです
 か?ほら、製本手伝ってくださいよ。あなた
 の希望でしょ?今どきアナログな資料作成」
   映理、ホッチキスを差し出す。
   大和田、目を逸らす。
大和田「単純な事務作業は女の方がうまいんだ」
映理「あー今度は女性蔑視!大和田さん、実は
 20くらい年齢サバ読んでません?価値観古す
 ぎ。ていうか自分が不器用でできないことと
 性別絡めないでくれます?」
大和田「うるさいな君は!こんな契約社員は初
 めてだ!できないなんて言ってないだろう!
 俺は何をやらせてもうまいんだ!」
   大和田、ホッチキスをひったくって資料
   の束を綴じ始める。
   悪戦苦闘する大和田を見る映理、微笑む。
映理「そうそう。二人で頑張りましょうねー」
   資料の表紙「駅前ランドマークマンショ
   ン建設について・発案者 大和田誠・六
   道映理」

〇同・会議室(夕)
   資料の表紙に夕日が差し込んでいる。
   各座席に製本された資料が並んでいる。
   映理、満足げに見ている。
映理「完璧。(腕時計を見て)ちょうど間に合い
 ましたね、大和田さん」
   映理、隣の大和田を振り返る。
   大和田、机に突っ伏している。
映理「大和田さん?」
   大和田、ハッとして顔を上げる。
大和田「な、なんだ?ちょっと寝てた…」
映理「これから大事な会議って言う時に緊張感
 ないですねぇ。真剣さが足りないのってどっ
 ちでしたっけ」
大和田「ちょっと昨日寝不足だっただけだ」
   大和田、起き上がるが足元がふらつく。
   映理、慌てて支える。
映理「何やってんですか。大丈夫ですか?プレ
 ゼン代わりましょうか」
大和田「触るな、契約社員
   大和田、映理の手をどかす。
大和田「トイレ行ってくる」
   大和田、出ていく。
映理「まー可愛くない。そんな調子でプレゼン
 なんてできるんですかねー」
   ドアが閉まる。
   映理、ドアを見つめる。
   ×   ×   ×
大和田の声「お手元の資料を開いてください」
   会議室に重役が複数人並んで資料を開い
   ている。
   大和田、マイクを持って登壇している。
   映理、脇に立ち資料を見ている。
大和田の声「なごみ駅周辺は再開発計画が進ん
 でいて…」
   マイクを通す大和田の少し苦しそうな声。
   映理、大和田を見る。
   大和田、演台に手を突いて話している。
   大和田の首筋に汗が大量に浮かんでいる。
   映理、大和田に駆け寄ろうとする。
   大和田、話しながら映理を手で制止する。
   映理、立ち止まる。
   大和田、背筋を伸ばして話を続ける。
大和田「今後都心部へのアクセスが改善される
 ことから、なごみ駅周辺がベッドタウンとし
 て機能することが可能となります。そこで…」
   映理、大和田をジッと見つめる。

〇同・企画部(夜)
   映理と大和田が入ってくる。
   映理、電気を点ける。
   席に手を突いてうつむく大和田に近付く。
映理「お疲れさまでした、完璧だったと思いま
 す。でも…大丈夫ですか?」
大和田「(間を置いて)うん?」
   映理を振り返る大和田、真っ青。
映理「え、真っ青じゃないですか…」
   大和田、意識を失い映理に倒れこむ。
   映理、慌てて受け止める。
映理「お、大和田さん!大和田さん!?」
   大和田、目を閉じている。

〇医務室(夜)
   ベッドに横になる大和田。
   映理、電話しながら大和田の額に冷却シ
   ートを貼る。
映理「うん、だからちょっと帰り遅くなる…ご
 飯はチンして食べて。ごめんね。姉ちゃんい
 なくてもちゃんと宿題して寝てよ。…うん、
 じゃあね」
   大和田、映理の手首を掴む。
映理「(電話を切って)大和田さん?気が付きま
 した?」
   大和田、目を閉じたままうなされている。
大和田「かあ、さん…行かないで…」
   映理、目を丸くする。
大和田「いやだ、一人は嫌だ…いい子にするか
 ら。全部言うこと聞くから…頑張るから…」
   大和田、涙を流しながらうなされている。
   映理、大和田の手を取って握り締める。
   反対の手で大和田の頭を撫でる。
映理「大丈夫、大丈夫、一人じゃないからね」
   大和田、声をあげて泣いている。
   映理、繰り返し声をかける。
      ×   ×   ×
   静かに眠っている大和田。
   ゆっくりを目を開けて周囲を見回す。
映理の声「だから!そういう考えがおかしいっ
 て言ってるんです!」
   大和田、顔を上げる。
   ドアの向こう、窓越しに映理の背中が見
   える。

〇医務室前(夜)
   映理が大和田の電話で話している。
   映理の大声が廊下に響いている。
映理「わかります?一番苦しい時に真っ先に出
 た言葉が『行かないで』ですよ!?どんだけ息
 子に寂しい思いさせてんですかあなたは!
 確かに誠さんは優秀ですけどねぇ、あなたの
 教育が悪いせいで寂しがり屋のくせに人にマ
 ウント取ることしかできない人間に育っちゃ
 ってんですよ!それで一番弱った時に大声で
 泣かなきゃならないんです!わかります?大
 の大人が『行かないで~』って泣くカッコ悪
 さ!誰の責任ですかこれ!」

〇医務室(夜)
   大和田、ベッドから半身を起こして映理
   を見ている。
大和田「六道…」
映理の声「もういいです!あなたみたいのが毒
 親っていうんですね!よーくわかりました!
 勉強になりました!ありがとうございまし
 た!さよなら!」
   乱暴にドアが開き映理が入ってくる。
   大和田、ポカンと映理を見る。
映理「具合、ちょっとは良くなりました?」
大和田「あ、ああ」
映理「そうですか、よかった」
   映理、冷蔵庫に向かい中から麦茶のペッ
   トボトルを取り出す。
   映理、無言でコップに麦茶を注ぐ。
大和田「あの、六道…」
映理「大和田さん」
   映理、麦茶の入ったコップを大和田に差
   し出す。
映理「私、決めました。私があなたに家族って
 いうものを教えてあげます」
   大和田、映理を見上げる。
   映理、大和田を見つめ返す。
   大和田、苦笑を浮かべる。
大和田「それってプロポーズか?」
映理「えっ」
   大和田、コップを受け取る。

 

★ノリノリの会話劇って好きです。

 お互いにマシンガンのごとく喋りまくるような。

 この回では伏線について教えてもらいました。

 伏線一つ貼るだけで何気ないシーンがよりエモくなるわけですね…深い…

課題「憎しみの一瞬」アディクション

    人 物

浜野鮎美(20)大学生

波岡礼子(20)大学生・鮎美の友人

本堂俊一(22)大学生・鮎美の彼氏

山口翔子(20)大学生・鮎美の友人

木戸智子(20)大学生・鮎美の友人

藤本里香(20)大学生・鮎美の友人

鮎美の母(52)

花屋の店主(43)

 

〇西京女子大学・全景

 

〇同・キャンパス

   白い建物。

   自然公園のような中庭。

   多くの女子大生が笑顔で過ごしている。

   清楚な白いワンピースにブランド物のト

   ートバッグを持った浜野鮎美(20)が歩い

   てくる。

   ベンチに座ってスマホをいじっている藤

   本里香(20)、鮎美に気付いて手を振る。

里香「鮎美おはよー」

鮎美「おはよ」

   鮎美、手を振りながら歩いてくる。

   鮎美の右手首に天然石のブレスレットが

   揺れている。

里香「素敵なブレスレットね」

鮎美「ありがと」

   鮎美、笑顔で校舎に入っていく。

 

〇同・カフェテリア

   学生が数組おしゃべりしている。

   波岡礼子(20)、山口翔子(20)、木戸智子

   (20)が談笑している。

   鮎美、カフェテリアに入ってくる。

   翔子が気付いて手を振る。

翔子「あ、鮎美!おはよ」

   鮎美、気付いて駆け寄る。

鮎美「おはよう」

   礼子、智子も口々に挨拶する。

礼子「(鮎美に)昨日お願いしてたのできた?」

鮎美「あ、うん」

   鮎美、トートバッグからUSBメモリを

   取り出し礼子に差し出す。

鮎美「どうぞ」

礼子「ありがと!」

智子「なあに、それ?」

礼子「ん?経済学のレポート。鮎美のレポート

 評判いいんだ」

翔子「それ教授に提出するの?」

礼子「うん」

   礼子、メモリを鞄に仕舞う。

翔子「礼子自分で書かないの?」

礼子「だって鮎美の方が出来がいいんだもん。

 (鮎美に)ねー」

鮎美「ふふ」

   翔子と智子、黙って顔を見合わせる。

礼子「あ、そうだ。お礼にコレもらって。私ち

 ょっと色が合わなくて」

   礼子、キッズコスメのリップを差し出す。

鮎美「ありがとう」

   鮎美、笑顔で受け取ろうと手を伸ばす。

   ブレスレットが光る。

   礼子、鮎美の手を掴む。

礼子「わぁ!何このブレスレット!素敵ね」

鮎美「あ、うん。いいでしょ」

礼子「どうしたのこれ?」

鮎美「俊一くんからもらったの」

   礼子、まじまじとブレスレットを見る。

翔子「いいねー、カラフルでキラキラしてて」

智子「うん。鮎美に良く似合ってる」

翔子「ね。さすが本堂くん。彼女に似合う物が

 何かわかってる」

鮎美「もう、翔子ってば」

礼子「ねえ鮎美、これくれない?」

鮎美「えっ」

   鮎美、翔子、智子の顔が強張る。

礼子「ねえいいでしょ?すっごく素敵だもん。

 これほしいな。ちょうだい?」

翔子「ちょ、ちょっと何言ってるの礼子」

智子「そうだよ。コレ鮎美の彼氏がくれたもの

 だって」

礼子「だったらまたもらえばいいでしょ?ねえ

 お願い鮎美!」

翔子「鮎美、あげなくていいよ」

智子「そうよ。礼子いい加減にしな」

   鮎美、ブレスレットを外して礼子に差し

   出す。

鮎美「どうぞ」

翔子・智子「鮎美!」

礼子「きゃーありがとう!鮎美大好き!」

   礼子、ブレスレットを腕に着け満足そう

   に微笑む。

礼子「あ、そろそろ講義行かなきゃ。じゃあね、

 また後で!」

   礼子、笑顔で立ち去っていく。

   翔子と智子、鮎美を睨みつける。

翔子「なんであげちゃうの!」

智子「そうだよ、どう考えてもおかしいでしょ」

鮎美「いいの、あれぐらい」

翔子「あれくらいって…」

鮎美「あの子が喜んでるんだからいいでしょ?」

智子「ねえ、あなた礼子に弱みでも握られてん

 の?」

鮎美「え?やだそんなんじゃないよ」

   鮎美、ニコニコ笑っている。

   翔子と智子、納得いかない様子。

 

〇マンション・全景(夜)

 

〇同・鮎美の部屋(夜)

   鮎美、スマホでティックトックを流しな

   がらドライヤーで髪を乾かしている。

   スマホが着信。

   礼子から。

   鮎美、電話を取る。

鮎美「どうしたの?」

 

〇礼子の部屋(夜)

   真っ暗な部屋にスマホだけが光っている。

   礼子、ベッドの上でうずくまり電話を耳

   に当てている。

礼子「鮎美…私…私…」

   玲子の声が震える。

 

〇マンション・鮎美の部屋(夜)

   鮎美のスマホから礼子の泣き声が聞こえ

   る。

鮎美「礼子、大丈夫?」

礼子の声「鮎美ぃ…私もうダメ…お母さんの声

 が聞こえるの。すぐそこまで来てるの。また

 殴られる。閉じ込められちゃうよ」

鮎美「大丈夫、誰もいないよ、大丈夫」

礼子の声「でも、でも…!」

   礼子の泣き声が激しくなる。

礼子の声「鮎美ぃ!寂しいよ、怖いよ、鮎美ぃ」

鮎美「わかった、今行くから。すぐ行くから待

 っててね」

   鮎美、スマホとハンドバッグを持って部

   屋を出る。

 

〇同・玄関(夜)

   鮎美、慌ただしく靴を履く。

 リビングから鮎美の母(52)が顔を出す。

鮎美の母「あんたこんな時間にどこいくの?」

鮎美「礼子のとこ。なんか不安定みたい」

鮎美の母「あら…またなの。大丈夫?」

鮎美「うん、多分私が行けば落ち着くと思うし」

鮎美の母「気を付けてね」

   鮎美、笑顔でうなずき出ていく。

 

〇礼子の部屋(夜)

   礼子、鮎美の膝にすがりついて泣く。

   鮎美、礼子の頭を優しく撫でる。

鮎美「心配しないで…私がいるよ。何も怖くな

 いよ、礼子」

   礼子、鮎美に縋り付く。ブレスレットが

   音を立てる。

 

〇花屋・正面

   エプロンを着けた鮎美が掃除している。

   起き上がりポケットからスマホを取り出

   す。

   待ち受けには鮎美と本堂俊一(22)が映っ

   ている。

   時間は9時55分。

鮎美「あと五分」

   箒を片付け、立て看板を立てる。

   ふと顔を上げる。

   何かに気付いて動きを止める。

 

〇商店街・道

   礼子と本堂が並んで歩いている、

   談笑している横顔。

 

〇花屋・正面

   鮎美、突っ立って見つめている。

 

〇商店街・道

   礼子、本堂の腕に抱き着く。

   本堂、困ったように笑いながら抵抗しな

   い。

 

〇花屋・正面

   鮎美、ジッと見つめている。

 

〇(回想)西京女子大学・カフェテリア

   笑顔の礼子。

礼子「ねえ鮎美、これちょうだい?」

礼子「ありがとう!鮎美大好き!」

礼子「いいなぁ鮎美。私も欲しいな」

礼子「え、いいの?ありがとう!」

   笑顔の礼子。ブレスレットが揺れる。

 

〇商店街・道

   礼子と本堂、手を繋いで歩いている。

   礼子の手首にブレスレット。

   笑顔の礼子と本堂。

 

〇花屋・正面

   黙って見つめている鮎美。

   花屋の店主(43)が出てくる。

花屋の店主「浜野さんもう開店時間だから…」

   鮎美、立て看板を思い切り蹴り飛ばす。

   花屋の店主、驚いて鮎美を見る。

花屋の店主「は、浜野さん?」

   鮎美、背中を向けていて表情は見えない。

鮎美「…すみません。頭痛いので早退します」

花屋の店主「え、あ、そう…」

   鮎美、店を飛び出す。

 

★自分が世話を焼いていた、無意識に下に見ていた友人に彼氏を奪われたら

 憎しみも相当だろうな…とか思いながら書きました。

 先生からは「積み重ねの構成」もいいけれど観客の想定内になりがちだというアドバイスをいただきました。

 めっちゃ納得して、代替案にも感心してたんですがそれを自分でちゃんと考え付くか!?というところに一抹の不安(笑)

 

 

課題「裏切りの一瞬」ずっと

    人 物

高橋有香(10)(15)中学生

高橋志織(35)(40)有香の母。シングルマザー

三苫清二(30)志織の同僚

松野(55)近所の住民

部長(45)志織の上司

 

〇葬儀場・正面

   雨が降っている。

   「高橋家葬儀」の立て看板がある。

 

〇同・会場

   僧侶の読経が響く。

   多くの参列者が座っている。

   祭壇には高橋徹(45)の遺影。

   すすり泣く声が聞こえる。

   遺族席の高橋有香(10)と高橋志織(35)。

   泣き腫らした目で俯いている志織。

   無表情で正面を向いている有香。

有香の声「お父さん」

 

〇火葬場・庭

   煙突から煙が上がっている。

   雨が降る中、煙突を見上げる有香。

志織の声「風邪ひくよ」

   有香に傘がかけられる。

   振り返ると志織が傘を差し出している。

有香「お母さん」

   志織、弱々しく微笑む。

有香「お父さん見てたの」

   志織、笑顔でうなずいていたが堪えきれ

   ず有香を抱きしめて泣く。

   有香、志織の腕を撫でる。

有香「お母さん、大丈夫だよ。有香がいるよ」

志織「うん、うん。頑張っていこうね」

   有香、志織に向き直る。

   有香と志織、抱き合う。

志織「有香はお母さんが守るからね」

有香「お母さんは有香が守るからね」

   煙突から煙が出ている。

 

〇住宅街(夕)

   中学の制服姿の有香(15)が学生鞄と満タ

   ンのエコバッグを持って走っている。

   向こうから松野(55)が歩いてくる。

松野「おかえり有香ちゃん」

   有香、走りながら手を振る。

有香「ただいま松野さん!」

松野「お母さん今日遅いの」

有香「うん。だからカレーでもしようかなって」

松野「そう。後で家においで。ポテトサラダわ

 けてあげる」

有香「やった!ありがとう!じゃあ後で」

松野「気を付けてね」

   有香、走っていく。

   松野、笑顔で見送る。

 

〇有香の家・キッチン(夜)

   有香の鼻歌。

   時計は20時を指している。

   流しに乱雑に積まれたボウルやまな板、

   包丁。

   生ごみ袋からにんじんの皮が溢れている。

   作業台にラップをかけたポテトサラダの

   皿が置かれている。

   コンロにかけた鍋をかき回している有香。

有香「いい感じ」

   ふと思いついたように冷蔵庫を開ける。

有香「隠し味」

   チョコを取り出し鍋に入れる。

   鍋を覗き込む。

有香「おお」

   玄関でドアが開く音。

志織の声「ただいまー」

有香「おかえり!」

   志織が顔を出す。

志織「お、今日はカレーね」

有香「アンド松野さんのサラダだよ」

   志織、鍋を覗き込む。

志織「いいね。ありがとう」

有香「もうできるよ。着替えてきちゃって」

志織「うん、ありがと。お母さんお腹空いちゃ

 った」

有香「私も!」

志織「遅くなってごめんね」

有香「今日は早い方だよ」

   志織、微笑んで出ていく。

 

〇同・ダイニング

   徹の遺影の前にカレーを置く志織。

   手を合わせる志織の右手に指輪。

志織「今日は有香のカレーよ、お父さん」

   有香、テーブルに料理を並べて席に着く。

有香「食べよ食べよ!」

志織「はいはい」

   志織、席に着く。

有香・志織「いただきまーす」

   食べ始める有香と志織。

   雑談しながら食事。

   志織、右手でソースに手を伸ばす。

   有香、志織の右手の指輪に気付く。

有香「あれ、お母さんそんな指輪持ってたっけ」

志織「ああ、これ?さっきタンスで見つけたの。

 昔お父さんからもらった指輪」

   志織、指輪を見せる。

有香「へー。お父さん、結構センスいいじゃん」

志織「今でもいけるでしょ」

有香「うん。いいな、私も欲しい」

志織「あんたが大人になったら譲ってあげる」

   志織の背後、遺影の徹が見える。

   有香、微笑む。

有香「いいよね、お母さん達って」

志織「なによ、急に」

有香「別に。私もいい旦那さん見つけたいな」

志織「いいわね。ちゃんと最後まで一緒にいら

 れる旦那さん見つけるのよ」

有香「そうだね」

   有香、カレーを頬張る。

   志織、カレーを食べる。

 

〇みつば不動産本社ビル・全景

 

〇同・管理部

   デスクで右手の指輪を眺める志織。

   志織の目の前にファイルが数冊置かれる。

三苫の声「何ボーっとしてるんですか」

   志織、顔を上げる。

   仏頂面の三苫清二(30)が立っている。

志織「三苫くん」

三苫「その物件の入居者リスト作ってほしいっ

 て部長から」

志織「あぁ、はい」

   志織、ファイルを開こうと手を伸ばす。

   三苫、志織の右手を掴む。

三苫「なんですかこの指輪。誰からもらったん

 ですか。まさか男」

志織「バカね。昔旦那からもらったのが出てき

 たから着けただけよ」

   志織、手を引こうとするが三苫は放さな

   い。

志織「三苫くん」

三苫「未だに結婚指輪もしてるし、おまけに追

 加で指輪とか。俺に牽制してるんですか」

志織「何言ってんのよ、そんなつもりじゃ」

三苫「だってそうじゃないですか」

   声が大きくなる三苫

   社員たちが振り向く。

   志織、慌てて強引に手を振りほどく。

志織「(小声で)朝っぱらからこんなとこで話す

 内容じゃないでしょ」

三苫「高橋さんが悪いんでしょう。俺の気持ち

 知ってるくせに」

   志織、ファイルを持って立ちあがる。

三苫「高橋さん」

志織「あの部長、リストの件なんですけど!」

   志織、離れていく。

   三苫、不満そうに見つめる。

   志織、部長(45)と会話しつつ、さりげな

   く三苫に手を振る。

   三苫、気付いてにやけながら席に戻る。

 

〇有香の家(夕)・リビング

   有香のスマホが着信する。

   ソファでくつろいでいた有香、テーブル

   の上のスマホに手を伸ばす。

   志織からのLINE。

   「急に飲み会入っちゃった。悪いけど何

   か買って食べてね」

有香「えーマジ?」

   有香、スマホを放り投げてソファに寝転

   がる。

   しばらく考えて起き上がる。

有香「よし、豪遊だ」

   有香、徹の遺影に手を伸ばす。

   写真立てに隠してあるお札を取り出す。

   有香、ニヤリと笑って遺影に手を合わせ

   る。

有香「お父さん、お母さんには内緒にしてね」

 

〇商店街・肉屋(夕)

   肉屋の主人がトンカツとコロッケと唐揚

   げを包んで有香に差し出す。

肉屋「はいお待ち。有香ちゃん、今日は豪勢だ

 ね」

有香「たまにはね」

肉屋「そうだ。これ、おまけ」

   肉屋、フランクフルトを差し出す。

有香「わーありがとう!」

   有香、受け取ってすぐに頬張る。

有香「おいしーい」

   有香、食べながら歩き出す。

 

〇同・道(夕)

   フランクフルトを食べながら歩く有香。

   人込みに志織を見つける。

有香「あれ、お母さん?」

   有香、見ている。

   志織の隣に三苫がいる。

   楽しそうに話す二人。

   三苫、志織の肩に手を回す。

   志織、三苫の肩に頭を乗せる。

   歩いていく志織と三苫

   有香の手からフランクフルトが落ちる。

   足を止める有香。

   歩行者にぶつかるが動かない。

   志織と三苫、ホテル街へ曲がっていく。

有香「…なんで」  

 

 

★厳密には裏切りとは言えないんですけどね。

 娘からしたら、母親はいつまでも母親で。

 もういないとはいえ、父親以外の男と…というのはなかなか受け入れられないですよね。まして、思春期の女の子なら。

 

 もはや定番と言える「裏切り」ですね(笑)