おいでよシナリオの森!

夢はヒーローもののライターです☆

課題「鏡」おまじない

   人 物

 南野紫(22)新入社員

 南野瑠璃江(75)紫の祖母

 南野葵(50)紫の母

 北村輝彦(30)紫の上司

 久保田史郎(65)北村の顧客

 久保田佳代子(60)久保田の妻

 

 

〇南野家・全景(朝)

 

〇同・紫の部屋(朝)

   朝陽が差し込んで明るい室内。

   乱れたベッドの上にはパジャマが脱ぎ捨ててある。

   姿見の前、スーツを着た南野紫(22)が真剣な表情でポーズを取っている。

   前髪をいじって整えたりシャツやスカートの皺を手で伸ばしたり。

   扉をノックする音が聞こえる。

葵の声「紫?いつまで着替えてるの、初日から遅刻するわよ」

紫「わかってるよぉ」

   紫、ドアを開ける。

   南野葵(50)が前に立っている。

   紫、葵の前で一回転してみせる。

紫「変じゃない?大丈夫?」

葵「大丈夫よ。ホラ、サッサと朝ごはん食べておいで」

紫「はーい」

   紫、居間へ向かう。

   葵、紫を見送ってふと床を見る。

   鞄を手に取って紫の後を追う。

葵「ちょっと紫、鞄忘れてる!」

 

〇同・瑠璃江の部屋(朝)

   障子が開け放たれている和室。

   南野瑠璃江(75)が古ぼけた箱を取り出し、中の小物をいじっている。

   部屋の奥、廊下を紫が通りすぎる。

   紫、戻ってくる。

紫「おばあちゃーん」

瑠璃江「ああ、紫おはよう」

   紫、瑠璃江の前で一回転してみせる。

紫「ねぇおばあちゃん、私変じゃない?上司に怒られたりしないかな」

瑠璃江「大丈夫だよ、どこも変じゃないよ」

紫「ほんと?」

瑠璃江「ホントホント。大体、そんなことでつべこべ言ってくる上司だったとしたら、

 そいつの方がおかしいんだよ」

紫「そうかもしれないけど…なんかネットとか見てたら変な上司多いみたいだし…ちょ

 っと不安で」

   瑠璃江、さっき見ていた小物を開けると中から手鏡を取り出す。

瑠璃江「そうだ。紫、これをあげる」

   瑠璃江、手鏡を差し出す。

   年季の入った、豪華なレリーフが彫られている手鏡。

   紫、受け取って手鏡をジッと見る。

紫「これなあに?鏡?」

   紫、自分を写してまた前髪を整える。

瑠璃江「それはね、おばあちゃんの魔法の手鏡なんだよ」

紫「魔法?」

瑠璃江「その鏡をこうやって、おでこに付けてね…こう言うんだよ。『私は大丈夫』

 『私はできる』ってね…。そしたらアラ不思議、どんどん元気が湧いてくるのさ」

紫「え~」

   紫、苦笑い。

   瑠璃江、ニコニコと笑っている。

瑠璃江「おばあちゃんからの、就職祝いだよ。使ってごらん」

紫「うん…ありがとう、おばあちゃん」

葵の声「紫ー!早くしなさい」

   紫、立ち上がる。

紫「(葵に向かって)はーい!(瑠璃江に向かって)じゃあ、いってくるね」

瑠璃江「いってらっしゃい」

   紫、手鏡をポケットに入れると部屋を出ていく。

   瑠璃江、笑顔で紫を見送る。

 

〇五井不動産・全景

 

〇同・更衣室

   扉に「女子更衣室」と書かれた札が貼ってある。

   女子社員たちが制服に着替えてロッカーに荷物を仕舞っている。

   紫も制服に着替え荷物をロッカーに仕舞う。

新入社員A「南野さん、用意できた?」

紫「あ、うんもうちょっと…先に行ってて」

新入社員A「わかった。じゃあ行ってるね」

紫「うん」

   社員たちが出ていく。

   一人残った紫、そっと瑠璃江の手鏡を取り出すと額に当てる。

   目を閉じる。

紫「私は大丈夫、私は頑張れる」

   紫、目を開き手鏡を見つめる。

   鏡に写る紫は自信満々の笑顔。

紫「ホントだ…おばあちゃん、さすがだな」

   紫、手鏡を両手で包み拝む。

紫「おばあちゃん、ありがとう」

   紫、手鏡をポケットに仕舞って更衣室から出ていく。

 

〇同・会議室

   テーブルとパイプ椅子が並んでいる会議室。

   紫たち新入社員たちが席につき説明を受けている。

   全員が真剣な表情で話を聞いている。

   紫も真剣な表情でメモを取りながら聞いている。

   正面のホワイトボードを利用しながら北村輝彦(30)が説明している。

   指示棒を置いて正面を向く北村。

北村「えーこれが君たち営業部の業務のアウトラインとなります。その後は当然、お客

 様や物件ごとにやらなければならないことが変わってきますが、そこは臨機応変に、

 お客様優先で対応していってください」

新入社員たち「はい」

北村「それでは各自、事前に配られた表に従って配属先の営業所へ向かってください」

   新入社員たち、書類を見ながら移動を始める。

   紫、書類を眺める。

   「南野紫 配属先:本社営業所」

紫「(小声で)本社だぁ…」

   紫、そっと北村を見る。

   北村、他の新入社員からの質問にキビキビと答えている。

紫「北村さんが上司ってことか…」

北村「こらそこ!いつまで休んでんだ早く移動

 しろ!」

   北村が鋭い目で紫を睨みつける。

   紫、慌てて立ち上がり深く頭を下げると足早に出ていく。

紫「は、はいすみません!」

   紫を見送る北村。

北村「まったく…」

 

〇同・営業所

   広々としたオフィス。

   カウンターでは社員が接客している。

   紫、奥の席に座りその様子を遠くから眺めている。

   バックヤードから鍵束を持った北村が紫の傍へ歩いてくる。

北村「行くぞ」

紫「え?行くって…」

   北村、外出用の資料ファイルや鞄を取り出しては紫の前に積み上げる。

北村「今から俺の顧客との約束があるから。まずは横にいて雰囲気を掴むんだ。あ、そ

 れ持ってきて」

紫「は、はい」

   北村、サッサと歩き出す。

   紫、立ち上がりポケットにメモ用紙を押し込む。指が手鏡に触れて、そっとレリ

   ーフを指でなぞる。紫に笑顔が戻る。

紫「…よし!」

   紫、ファイルを抱えると北村の後を追う。

 

〇新築分譲マンション・全景

 

〇同・2005号室内・リビング

   何もないリビングで北村が客の久保田史郎(65)佳代子(60)夫妻相手にファイルの

   資料を見せつつ説明している。

   紫、北村の隣でメモを取りながら聞いている。

北村「…というわけなんですが、いかがでしょうか?久保田様」

久保田「そうだなぁ…佳代子、お前はどう思う」

佳代子「そうねぇ」

   佳代子、笑顔で部屋を見回し、紫を見る。

佳代子「そちらのお嬢さんのお話も聞きたいわ」

   紫、驚いて顔を上げる。

紫「わ、私ですか?」

北村「すみません奥様、南野は本日入社したばかりであまり詳しいことは…」

佳代子「あら、詳しい話は貴方から聞いたから必要ないでしょう。私は、このお嬢さん

 の素直な感想を聞きたいの」

   佳代子、笑顔で紫を見つめる。

佳代子「あなたは、このお部屋どう思う?買った方がいいかしら」

紫「えっと…」

   紫、メモ帳をポケットに戻す。

   その手でそっと手鏡を握り締める。

紫の声「大丈夫…私なら大丈夫…」

   佳代子を見つめ返す。

   その笑顔に瑠璃江がオーバーラップする。

紫「とてもステキだと思います。日当たりも良くて、もしおばあちゃんの家がこんな所

 だったら、私ならきっと通っちゃいます」

   佳代子と久保田が嬉しそうに微笑んでいる。

佳代子「あら嬉しい通ってきてもらえるなんて」

久保田「これは急いでこの部屋に引っ越さなきゃなぁ」

 

※ちょっと過去の経験が生きてます(笑)