おいでよシナリオの森!

夢はヒーローもののライターです☆

課題「写真」マリア

    人 物

 木村栞(19)女子大生

 木村弓(44)栞の母

 高倉洋(35)近所の友人

 

 

〇木村邸・全景

 

〇同・書斎

   壁一面の本棚一杯に辞書や参考書、自己啓発本、文庫小説が並んでいる。

   机にメモ用紙を広げた木村栞(19)がメモの内容を確認しつつ本棚から本を探して

   いる。

栞「えーと、夏目漱石全集…あった」

   目線より高い位置の棚からハードカバーの本を取ろうとして手が滑り、何冊かま

   とめて本が落ちてくる。

栞「あーあ、やっちゃった」

   栞、急いで床に散らばった本をまとめ、本に疵が無いか確かめる。

栞「よかった、なんともない…お父さんこういうのうるさいからなぁ…」

   ふと目線を床にやると写真らしきものが何枚か散らばっている。

   一枚を拾い上げる栞。

   水着姿の木村弓(25)と木村悟(31)が笑顔で写っている。

栞「わ、これお父さんとお母さん?若ーい」

   次の写真も水着姿の弓と悟のツーショット。浜辺を背景に、全身が写っている。

栞「お母さんてば結構大胆な水着着てたんだ」

   栞、写真を裏返す。弓の手書きの文字で『2002年8月10日千里浜にて』と書か

   れている。

   栞、一瞬真顔になる。

   机の上の卓上カレンダーに目をやる栞。

   2021年8月のカレンダー。13日に赤丸が付けられていて『栞誕生日!』と書かれ

   ている。

栞「…あれ、2002年て、私が生まれた年よね。私が19歳だから…(指折り数え)うん、

 間違いない」

   もう一度写真を見る栞。

   水着姿の弓はスレンダーで、妊婦には見えない。

栞「…どういう、こと…?」

 

〇同・ダイニングキッチン

   キッチンで弓(44)が昼食を作っている。

   みそ汁を味見して満足げにうなずく。

弓「よし」

   ドアを開け栞が入ってくる。

   弓、背中を向けて調理を続けたまま栞に話しかける。

弓「もうちょっとでできるから、先にテーブル拭いといてくれる?」

   栞、俯いたまま突っ立っている。

   弓、不思議そうに振り返る。

弓「…栞?どうしたのそんなとこに突っ立って」

   栞、俯いたまま。

栞「…お母さん」

弓「?」

   弓、調理の手を止めてコンロの火を消して栞に近づく。

   膝を折りうつむく栞を覗き込むように

弓「どうしたの?何かあった?」

栞「…私は、お母さんの子じゃないの?」

弓「えぇ?あんた何をバカなこと…」

   顔を上げる栞。目が真っ赤で涙を溜めている。

   弓、言葉に詰まる。

   栞、持っていた写真をテーブルに並べる。

   それを見た弓、一瞬目を見開く。

弓「…あんた、これをどこで?」

栞「お父さんの書斎で見つけた。ねぇこれどういうこと?どうして私が生まれた年の、

 私が生まれる前の写真なのに、お母さんのお腹ぺったんこなの?私を生んだのはお母

 さんじゃないの?」

弓「栞、落ち着いて聞いて。これはね…」

栞「否定しないんだね」

弓「栞、だから…」

   栞、部屋を飛び出していく。弓、慌てて追う。

弓「栞、待って!」

〇同・玄関

   栞が外に飛び出していく。

   追いかける弓の前で扉が閉まる。

弓「栞…!」

 

〇同・家の前

   高倉洋(35)がトマトが沢山入ったポリ袋をぶら下げて歩いてくる。

   家の前で、飛び出してきた栞とぶつかりそうになりよろける高倉。

高倉「おっと…栞ちゃん?」

栞「あ…」

   栞、高倉を見てうつむく。

高倉「ウチで採れたトマト持ってきたんだけど、おばさん家にいる?」

   弓が家から出てくる。

   栞、弓の姿を見止めると高倉の手を引く。

栞「にいちゃん、こっち」

高倉「え?」

   栞と高倉が去っていく。

   弓、その後ろ姿を見送る。

 

〇児童公園

   自動販売機でアイスコーヒーとコーラを買う高倉。

   ベンチに座っている栞の元へ来て両方差し出す。

高倉「どっちにする?あ、コーヒーはまだ無理か」

栞「もう飲めるもん」

   栞、高倉の手から缶コーヒーをひったくるとすぐに飲む。

高倉「それ、ブラックだけど」

   栞の顔が歪む。

栞「にが」

高倉「ははは、まだまだだねぇお嬢ちゃん」

   高倉、栞の手から缶コーヒーを取るとコーラを渡す。

   栞の隣に座り、缶コーヒーの飲み口をティッシュで拭いてから一口飲む。

   栞、高倉を見つめている。

高倉「うん、やっぱりこの苦さがいいね」

   栞、缶コーラを開けて飲む。

栞「私はこっちがいい」

   チビチビと飲む栞。

   高倉、栞を優しい目で見ている。

高倉「それで?おばさんと何かあった?」

   栞の手が止まる。

 

〇木村邸・ダイニングキッチン(夕)

   薄暗い室内で弓が電話している。

   手元には栞が持ってきた写真。

弓「…そう、じゃあ今夜はそちらで」

高倉の声「うん。おふくろも喜んでるし、とりあえず一晩だけこっちで預かるよ」

弓「ごめんね洋ちゃん」

   弓、顔を上げ壁に飾ってある家族写真に目をやる。

   振袖に身を包んだ栞(7)と弓(32)、悟(38)の記念写真、クリスマスパーティー中の

   栞(10)、弓(35)、悟(42)の写真…どれも全員が満面の笑顔で写っている。

高倉の声「いいって。いつかこういう日が来ると思ってたし。俺に任せといて」

弓「うん、ありがとうね…」

 

〇高倉邸・全景(夕)

 

〇高倉邸・高倉の部屋(夕)

   栞が漫画を読んでいる。

   高倉が入ってきて栞の前に座る。

高倉「泊まるって言ってきたよ」

栞「うん…あ、でも私、寝るときはおばさんの部屋に行くからね」

高倉「わかってるよ…そうだ、アルバム見せようか」

   高倉、本棚から分厚いアルバムを取り出して栞の前に広げる。

   赤ん坊の高倉の写真や園児服の高倉(3)の写真など丁寧に飾られている。

   栞、興味深そうに眺めている。

栞「へぇ。あ、にいちゃんこのころからめっちゃ面影あるね」

高倉「そうだろ、小さい頃からイケメンだろ」

栞「そうは言ってない」

   ページをめくる栞。

   赤ん坊の栞を抱いた弓(25)と、高倉(16)と高倉の母(35)が写っている。

   栞の手が止まる。

高倉「お、栞ちゃん出てきたな。この頃は可愛かったなぁ」

栞「…にいちゃんは知ってたんだよね。私が、お母さんの子じゃないって」

高倉「まぁ、な。詳しいことは知らないけど、生まれてすぐにおばさんたちが引き取っ

 たって聞いてる」

   栞、そっと写真の栞と弓を撫でる。

栞「ずっと家族だと思ってきてたのに…」

   写真の上に栞の涙が落ちる。

   高倉、うつむいたままの栞を見つめる。

高倉「いや、家族だよお前たちは」

   高倉、アルバムをめくり、あるページで手を止め栞に差し出す。

高倉「ほらコレ、見ろよ」

   栞(3)と高倉(19)が水遊びをしているところを、画面奥で弓(28)が眺めている写

   真。

   高倉の指が弓を指す。

高倉「このおばさんの表情。すっごく優しいと思わないか。なんつーか…めっちゃ大事

 なものを見つめてる顔っていうか」

   弓の穏やかな笑顔。

   栞、ジッと写真を見つめる。

   高倉、本棚を漁り他のアルバムを出してくる。

   ページをめくり栞の前に差し出す。

高倉「まだあるぞ。おばさんと栞ちゃんが一緒に写ってる写真、どれもおばさん、めっ

 ちゃ優しい顔してるんだ。ホラ」

   栞、差し出された写真を食い入るように見つめる。

 

 

※旦那から聞いた、過去のバラエティ番組であったお話をヒントに書いてみました。