おいでよシナリオの森!

夢はヒーローもののライターです☆

課題「帽子」あなたを忘れない

   人 物

 東野啓太(38)サラリーマン

 東野絵里子(38)啓太の妻・主婦

 東野豊(7)啓太の息子・小学一年生

 東野政則(享年60)啓太の父・故人

 

〇東野家・全景

 

〇東野家・啓太の部屋

   ソファに座り黒いハットにブラシをかけている東野啓太(38)

   キレイになったことを確認すると満足げに頷き帽子を被って立ち上がる。

   洋服ダンスの上、穏やかな笑みを浮かべる父・東野正則(60)の遺影が飾

   られている。啓太、手を合わせる。

   ノック音の後、妻・東野絵里子(38)がドアを開け啓太を呼ぶ。

絵里子「パパ、準備できてる?」

   キョトンとして振り向く啓太。

啓太「え?何かあったっけ」

絵里子「何言ってるの…。今日お休みなんだったら豊を動物園に連れて行ってあ

 げようって話してたじゃない」

啓太「あぁ…あぁ、そうだったっけ?すまん忘れてた」

絵里子「(呆れて)もう…。とにかく、出かける準備できたら来てね。こっちはも

 うできてるから」

   絵里子が出ていこうとする。

啓太「あー…それなんだけど」

   絵里子が立ち止まって振り返る。

   啓太、ジャケットを羽織り鞄を手に取り部屋からドアに近づく。

絵里子「なに?」

啓太「俺今から墓参り行くから行けないわ」

   啓太、足早に出ていく。慌ててその後を追う絵里子。

絵里子「はぁ?誰の!?」

 

〇同・廊下

啓太「誰のって、親父のに決まってるだろ」

絵里子「だってお義父さん亡くなったのって今日じゃないじゃない」

啓太「月命日だよ、知らないのか」

   リビングから息子・東野豊(7)が顔を出す。

豊「パパ、準備できたの」

   リュックを背負い絵里子の後に付いてくる豊。

 

〇同・玄関

絵里子「月命日は知ってるけど、それって行かなきゃいけないものなの?」

   啓太、靴を履きながら

啓太「当然だろ、他でもない親父の月命日だぞ」

絵里子「動物園はどうすんのよ」

   立ち上がった啓太、困ったような笑顔を見せて、

啓太「あぁ~それな、お前ら二人でいってきてくれ。それじゃ、行ってくる」

   そそくさと家を出ていく。

絵里子「えぇ!?ちょっと…!」

   扉が閉まる。

   茫然としている絵里子。豊、悲しそうに絵里子を見上げて、

豊「パパ、どっか行っちゃったの?」

   絵里子、豊を抱きしめて、

絵里子「パパね、お仕事になっちゃったんだって。だからママと二人で行こうね」

豊「えー!パパとライオン見ようねって約束してたのに!」

絵里子「ごめんね豊…」

 

〇墓地

   東野家之墓と書かれた墓の前でせっせと掃除をしている啓太。

   墓石を拭いて花を飾る。

啓太「よし」

   数珠を取り出し立ち上がると、墓に向かってしっかりと手を合わせる。

   目を閉じている啓太。

啓太の声(回想)「え、親父が倒れた!?」

 

〇回想・公園

   ベンチに座り、今よりも髪が茶色く若々しい啓太(30)が電話している。

   隣には金髪の絵里子(30)。

   絵里子、不思議そうに啓太を見る。

   啓太、声を落とし絵里子に背を向ける。

啓太「わかった、今からそっち行く」

   電話を切ると無理に笑顔を作って振り向く。

啓太「ごめん絵里子、ちょっと急用が」

絵里子「忙しいのね、気を付けて」

啓太「ありがとう」

   駆け出す啓太。必死の表情。

 

〇回想・病室

   政則(60)がベッドで横になっている。点滴につながれ、青白い顔。

   啓太がベッドサイドに座り、母・志乃(58)が壁際に立って見ている。

   壁にはコートとハットがかかっている。

政則「絵里子ちゃんとデート中だったんだろ。そんなに急いで来なくても」

啓太「バカ言うな、親が倒れたって聞いて遊んでられるか」

政則「なぁに大した事じゃないさ、ちょっと疲れがたまってただけ…」

   政則、大げさに笑おうとして咳き込む。慌てて背中を擦る啓太。

政則「へへ…お前の晴れ姿を見るまでは死 ぬ気ねぇから安心しろや」

啓太「俺の晴れ姿ぐらいで満足すんな」

政則「あぁそうだな…孫の姿でも見ないことには安心できんな…。お前の子が、ち

 ゃんと可愛く生まれてくるか…」

啓太「ホントに…憎まれ口ばっかりだな」

政則「それが男ってもんよ」

啓太「…そうだな」

   志乃、後ろで涙を堪えきれずにいる。

 

〇回想・病室

   赤子の豊がベッドの上の政則に抱かれている。デレデレの政則。

   啓太、絵里子、志乃は横で見守っている。

政則「可愛いなぁ…可愛いなぁ…」

 

〇墓地

   ゆっくりと目を開く啓太。

啓太「親父…見てるか…」

 

〇東野家・啓太の部屋

   遺影の前に飾ってあるハットを取りソファに腰掛ける啓太。

   ハットにブラシをかけようとする所で、絵里子が入ってくる。

   絵里子、真っすぐ壁のカレンダーに向かい赤ペンで何かを書き込む。

啓太「おい、ノックくらいしろ…何してるんだ?」

絵里子「来月の15日。豊の初めての運動会なの。もちろん、一緒に応援に行って

 くれるわよね?」

   カレンダーの9月15日の欄に赤字で「豊の運動会!」と書かれている。

   啓太、困ったように頭をかいて、

啓太「参ったな、その日は親父の月命日だから…。遅れていくのでもいいか?墓参

 りの後駆けつけるよ。うん、それがいい」

   無表情の絵里子。

   啓太の元まで歩み寄るとハットを奪い取りゴミ箱へ叩きつけるように捨てる。

啓太「ああっ!」

   啓太、絵里子を押し退けゴミ箱からハットを取り出す。消しゴムカスや

   埃まみれになったハット。

啓太「なんてことしやがるんだお前は!」

   啓太、思い切り絵里子を平手打ち。

   頬を押さえてよろめく絵里子。

   啓太、やってしまった、という顔。

   絵里子、うつむき表情が見えない。

絵里子「…ねぇ、あなたの家族は誰なの?」

   ゆっくり顔を上げる絵里子。頬は赤く腫れ、口元には血が滲んでいる。

   啓太を見つめる瞳は憎しみに満ちている。

   絵里子の迫力に圧倒される啓太。

絵里子「亡くなったお義父さんを大事に思う気持ちはわかるわ。血のつながった親

 子だものね。でもね…だったら豊はどうなの?あの子もあなたと血のつながっ

 た親子だわ」

   ハッとする啓太。

絵里子「あなたに何度も約束を破られて、泣いて、それでもあなたをパパと慕うあ

 の子の気持ちはどうなるの?今生きている家族を大事にしてよ!」

   何も言えない啓太。

   絵里子、大げさに溜息を付いて部屋を出ていこうとする。

啓太「あ…!」

   啓太、引き止めようとするが

絵里子「しばらく豊と実家に帰るわ。夏休みだし。じゃあね」

   絵里子は振り返らず出ていく。

   茫然と立ち尽くす啓太。

 

〇同・啓太の部屋(夕)

   夕日が差してくる室内。

   ソファで家族写真(啓太・絵里子・豊)をぼんやりと眺めている啓太。

   ハットは埃まみれのまま足元に落ちている。

   そこへ政則の手が伸びてハットを拾い上げ被る。

   驚いて顔を上げる啓太。

   政則、いたずらっ子のような笑顔を浮かべる。

 

 

※回想シーンをよく使ってしまうので、書き方を改めて教えていただきました。

 今後は上手に書ける!…はず(笑)