おいでよシナリオの森!

夢はヒーローもののライターです☆

課題「復讐」零れ落ちる水

    人 物

成平貴子(16)高校生

枡野彩佳(16)貴子のクラスメート

成平孝一(50)貴子の父

成平聖子(45)貴子の母

新庄篤弘(33)貴子の担任

木戸一郎(48)弁護士

静川環奈(16)貴子のクラスメート

 

 

 

 

 

 

〇成平家・寝室(夕)

   薄暗い室内。

   大きなダブルベッドが部屋の中心にある。

   成平貴子(16)が入ってくる。

   ベッドの隣のクローゼット上の棚に手を

   伸ばす。

   並んでいる陶器の置物の隙間にあるもの

   を掴みあげる。

   貴子の手の平には小型カメラ。

   貴子、中のメモリカードを取り出す。

 

〇同・リビング(夕)

   可愛いインテリアが数多く並ぶ部屋。

   あちこちに花が飾られている。

   成平聖子(45)がソファに座りクッキーを

   食べながらテレビを見ている。

   貴子が入ってくる。

貴子「お母さん」

聖子「帰ってたの?おかえり、貴子」

貴子「お父さんは?」

聖子「残業ですって。最近多いわね」

貴子「そう」

   貴子、聖子の隣に座る。

   メモリカードを聖子に差し出す。

聖子「なにこれ?」

貴子「プレゼント」

   貴子、ニッコリ微笑む。

   聖子、不思議そうに貴子を見る。

 

〇成平家・全景

   蝉が鳴いている。 

   大きな白い壁の一軒家。

   木戸一郎(48)が汗を拭きながら歩いてく

   る。

 

〇同・リビング

   貴子、聖子、木戸が並んでソファに座っ

   ている。

   向かいのソファに成平孝一(50)が座る。

   テーブルの上には離婚届。

   成平、ペンを取り離婚届に署名を始める。

   貴子、冷めた目で見つめている。

   聖子、何度もハンカチで涙を拭っている。

   成平、ハンコを押して木戸の前に離婚届

   を差し出す。

   木戸、書類を確認する。

木戸「はい、確かに」

   成平、深々と頭を下げる。

成平「本当に…すまなかった」

   聖子、泣き出す。

   貴子、動かない。

成平「貴子」

   貴子、無表情のまま成平を見つめる。

   成平、目を逸らす。

 

〇同・玄関前

   枡野彩佳(16)が壁に背を預けて立ってい

   る。

   玄関の向こうで話し声が聞こえて隠れる。

   扉が開いて木戸が出てくる。

木戸「それでは、私はこの辺で」

聖子「どうもありがとうございました」

木戸「奥さん、また明日、事務所でお待ちして

 います」

聖子「よろしくお願いいたします」

   木戸、会釈して去っていく。

   彩佳、木戸を見送って聖子を見る。

彩佳「あの…」

   聖子、憔悴しきった表情。

   彩佳、口を噤んで隠れる。

   扉が閉まる。

   彩佳、深いため息を吐く。

 

〇同・貴子の部屋

   ドアに「貴子の部屋」とプレートが飾っ

   てある。

   アイドルのポスターがたくさん貼ってあ

   る。

   クローゼットは開いたまま

   ベッドに洋服が散乱している。

   貴子、段ボールに服を詰めている。

貴子「ガムテープ…」

   貴子、立ち上がり机に近づく。

   ガムテープを手に取り、机の上の写真の

   山に目が行く。

   貴子と彩佳、他数人の女友達と撮った写

   真や貴子と彩佳のツーショット等多数。

   貴子と彩佳、顔を寄せ合って笑っている。

   貴子、ハサミを手に取り、彩佳の顔にハ

   サミを入れる。

   貴子の足元に写真の破片が落ちる。

   貴子、無言でハサミを入れ続ける。

   涙が一筋零れる。

 

高岡高校・全景

 

〇同・1年1組前

   1年1組のプレートがかかっている。

新庄「えー残念な話だが」

 

〇同・1年1組

   教壇に新庄篤弘(33)と貴子が立っている。

   席に着いている生徒の中に彩佳。

新庄「成平くんがご家庭の事情で、今日付けで

 転校することになった」

   ざわつく生徒たち。

   彩佳の後ろに座る静川環奈(16)、彩佳の

   背中を指でつつく。

環奈「ねぇ、知ってた?貴子のこと」

彩佳「え?」

環奈「彩佳、一番仲良かったじゃない。なんで

 転校するのか聞いてないの?」

彩佳「知らない…」

   彩佳、目を逸らす。

   環奈、不満そうに彩佳を見る。

新庄「急なことで驚いたと思うが、皆笑顔で成

 平を送り出してやってくれ」

成平「短い間でしたけどお世話になりました」

   貴子、深々と頭を下げる。

   顔を上げた貴子、満面の笑み。

貴子「皆さんのこと、忘れません」

   生徒たち拍手。

   貴子、笑顔で生徒を見回す。

   彩佳、うつむいて目を伏せる。

 

〇同・職員室前

   職員室から貴子が出てくる。

貴子「失礼しました」

   彩佳が近付いてくる。

彩佳「貴子」

   貴子、彩佳を見る。

彩佳「ちょっと…いい?」

   貴子、無言。

   彩佳、貴子を不安げに見る。

   貴子、笑顔になる。

貴子「いいよ。私もちゃんと話したかったし」

   彩佳、安堵の笑み。

 

〇同・屋上前

   貴子、屋上へ出るドアを開けようとする

   が鍵がかかっている。

   彩佳、後ろで見守っている。

貴子「あー今日は開いてないのか。残念」

   貴子、笑顔で振り返る。

貴子「しょうがない。ここで話そうか」

彩佳「うん」

   貴子、ドアにもたれかかる。

彩佳「あの日から、ちゃんと貴子と話してなか

 ったなって思って…。何度も会いに行こうと

 したんだけどできなかったの。学校で話すよ

 うなことでもないし」

   貴子、笑顔で黙って聞いている。

彩佳「こんなこと…今更言ったってしょうがな

 いと思うけど、やっぱり直接言いたかったの。

 貴子、あなたを裏切るようなことしてゴメン」

   貴子、笑顔のまま。

貴子「お父さんは、彩佳のこと遊びだって言っ

 てたけどホント?」

彩佳「ホントだと思う。私と会っていてもおば

 さんや貴子の名前よく出してたし。本気で私

 とどうこうなるつもりはなかったんじゃない

 かな」

貴子「彩佳はそれでも良かったの」

   彩佳、ためらいながら首を振る。

彩佳「私、最初は本気だった。本気だったけど」

   貴子、笑顔のまま。

彩佳「私子供過ぎた。自分のことしか考えてな

 かった。貴子、ごめん。あなたを傷つけたか

 ったわけじゃないの。

 私も転校することにした。

 寮に入って、こっちにはなるべく帰らないよ

 うにする。

 これ以上、貴子たち家族に関わらないように

 するから」

貴子「もう家族じゃないけどね」

   彩佳、言葉に詰まる。

彩佳「ごめん。本当にごめん」

   彩佳、頭を下げる。

   貴子、体を起こす。

貴子「彩佳、顔上げてよ。もういいよ」

   彩佳、顔を上げる。

   貴子、微笑む。

彩佳「貴子」

貴子「彩佳。もういいよ」

   貴子、手を差し出す。

   彩佳、貴子の顔と手を見比べて笑顔にな

   る。

彩佳「貴子…!」

   彩佳、差し出された手を取ろうとする。

   貴子、差し出した手で彩佳の胸を強く押

   す。

彩佳「え」

   彩佳の体が大きく後ろに揺らぐ。

   彩佳、バランスを崩し、そのまま階段を

   落ちていく。

   床に倒れる彩佳、目を見開いたまま動か

   ない。

   貴子、笑顔のまま彩佳を見下ろしている。

貴子「もう、どうでもいいんだ」

   貴子、無表情になる。

 

 

※復讐…女のドロドロを書きたくなってしまうのはなぜ?

 タイトルの「零れ落ちる水」は「覆水盆に返らず」の諺から。

 自分的には珍しく、少し捻ったタイトルなのです。