おいでよシナリオの森!

夢はヒーローもののライターです☆

課題「窓」紅より紅し

    人 物

境美代子(33)シングルマザー。竜生の養母

境竜生(4)美代子の養子

松平麗子(30)竜生の実母

若林枝里子(50)松平家の家政婦

 

 

松平家・応接室

   大きな絵画が飾ってある。

   高級そうな調度品が多く並んでいる。

   境美代子(33)と松平麗子(30)が向かい合って座り、美代子が書類に署名をしてい

   る。

   「養子離縁届」の養親欄に署名し捺印する。

   書き終えた書類を麗子へ差し出す。

   麗子、書類を受け取って見つめる。

麗子「受け取りました。…本当にいいんですね」

   美代子、小さくうなずき壁を見る。

   壁には小窓が付いていて、隣の部屋の様子が見える。

 

〇同・応接室の隣部屋

   玩具でいっぱいの部屋で、境竜生(4)が若林枝里子(50)に相手してもらって楽しそ

   うに遊んでいる。

 

〇同・応接室

   竜生を小窓越しに見つめる美代子。

美代子「いいんです。きっと、その方があの子のためにもいいはずです」

   麗子、美代子をジッと見つめている。

   美代子、ぎこちない笑顔で麗子を見る。

美代子「私と松平さんを見たら一目瞭然じゃないですか。きっと私じゃ、あの子の将来

 に我慢を強いることになる。大学も満足に行かせてやれないんです。でも、貴方の 

 でならそんな心配はいらないでしょう」

   麗子、小さくうなずく。

美代子「それに…誰だって、本当の両親の元で暮らすのが一番なんです」

麗子「境さん…いえ、美代子さん」

   麗子、体を乗り出し、細くキレイな手で美代子のカサカサした手を取る。

麗子「今まで本当にありがとうございました。あの子があんなに元気に育っているのは

 全て、美代子さんと、亡くなられたご主人のおかげです」

   麗子、美代子の手を強く握り締める。

麗子「お一人でさぞ大変だったでしょう。辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」

美代子「いえそんな。あの子がいてくれたから主人が死んだ後も立っていられたので。

 むしろ私の方が」

   美代子、笑顔を作ろうとするが叶わずうつむく。

   麗子、微笑んで美代子の手を撫でる。

麗子「いつでも遊びに来てくださいと言いたいところですけれど」

美代子「ええ、わかっています。私はもうあの子には」

   美代子、小窓を見る。

   竜生は楽しそうに笑っている。

   美代子、鞄を持って立ち上がる。

美代子「今のうちに帰ります」

麗子「会っていかれないのですか」

美代子「別れがたくなります」

   美代子、足早に小窓の前を通り過ぎ部屋を出ていく。

   窓の向こうの竜生、気付いたようにこちらを見ている。

 

〇同・応接室の隣部屋

   竜生、立ち上がって小窓に近づく。

枝里子「竜生くん?どうしたのかな」

竜生「ママ、どこ?」

   竜生、近付いてきた絵里子の隣をすり抜けて入口のドアへ向かう。

枝里子「竜生くん、ママはまだお話しの最中だから。おばちゃんと待ってよう?」

竜生「ううん、ママいない。ぼくママと帰る」

   竜生、ドアを叩く。

竜生「ママー!ママ、ぼくも帰るー!」

   竜生、ドアノブを捻ろうとする。

   枝里子、慌ててドアから離そうとするが竜生は離れない。

 

〇同・応接室前

   隣の部屋から竜生がドアを叩く音がする。

   美代子、泣きそうな顔で唇をかんでいる。

   麗子、美代子の背中を押す。

麗子「竜生くんは若林が見てますから、今のうちにこちらから」

美代子「は、はい」

   麗子と美代子、部屋から離れていく。

 

〇同・応接室の隣部屋

   竜生、ドアにしがみついている。

竜生「ママー?」

枝里子「竜生くん、いい子だからこっちでおばちゃんと…」

竜生「ママー!」

   竜生、振り返って部屋の中へ走る。

   枝里子、慌てて追いかける。

   竜生、大きい両開き窓に駆け寄ると踏み台を持ってきてよじ登る。

枝里子「危ないよ、竜生くん!そっちにママはいないから…」

竜生「ママ、ママどこー?ママー」

   竜生、窓の向こうをずっと見ている。

竜生「あ、ママ!」

   竜生、窓を開けて乗り出す。

 

〇同・玄関前

   美代子が玄関から出てくる。

   暗い表情で門に向かって歩いていく。

竜生の声「ママ!」

   美代子、驚いて振り返る。

   二階の窓が開いて竜生が乗り出して美代子を見ている。

   枝里子が必死で押さえている。

   竜生、美代子を見て手を伸ばす。

竜生「ママ、待って!ぼくも帰る!おいてかないで!」

枝里子「竜生くん、危ないから降りようね」

竜生「いや!ママ、待って!待って!」

   美代子、泣きそうになるのを必死で堪えて竜生を見る。

美代子「竜生、これからはそこがあなたのお家なの。元気でね」

   竜生、一気に泣き出す。

竜生「やだ!なんで!ママ行かないで!おいてかないで!ぼくも行く!」

   枝里子、竜生を窓から引き離して閉める。

   窓の向こうで竜生が泣き叫んでいるが声は聞こえない。

   美代子、泣きそうな顔で窓を見上げる。

   竜生が手を伸ばして泣いている。

   美代子、涙が溢れ出す。

   麗子が枝里子の隣に現れ、美代子に向かって深々と頭を下げる。

   美代子、うなずき窓に背を向けると走り出す。

   枝里子の手から逃れた竜生、再び窓を開けて乗り出す。

   麗子と枝里子、二人で窓から退かそうとするが暴れて抵抗する竜生。

枝里子「危ないからやめなさい!」

竜生「ママ!行かないで、ママ!ママ!」

麗子「竜生くん、ママは私よ。あなたは私が産んだのよ」

竜生「やだ!ママじゃない!ママぁ!ママぁ!」

   美代子の足が止まる。

   うつむいている美代子。

美代子「…ごめんなさい」

   美代子の足が走り出す。

 

〇同・応接室の隣部屋

   開き窓を閉めて鍵をかける枝里子。

   窓にしがみついたまま大声で泣いている竜生。

麗子「竜生くん、ほらこっちにおいで」

竜生「やだ!ママぁ!ママぁ!」

   麗子が手を伸ばす。

   竜生、その手を振り払って泣き叫ぶ。

   麗子、困った表情。

   突然、扉が開く。

   驚いて振り返る麗子、枝里子、竜生。

   竜生の表情がどんどん笑顔になる。

竜生「ママ!」

   肩で息をしながら美代子が立っている。

   竜生、美代子に駆け寄る。

竜生「ママ!」

   美代子、竜生を受け止めて強く抱きしめる。

美代子「竜生、竜生…」

麗子「美代子さん…」

   美代子、麗子に向かって立つと深々と頭を下げる。

美代子「松平さん、ごめんなさい。今回の件、

 お断りさせてください」

   麗子、無言で美代子を見つめている。

美代子「私のわがままかもしれませんが…もう私は、この子がいない人生に耐えられそ

 うにありません」

   美代子、竜生の頭を撫でる。

美代子「竜生の将来を思うなら、こちらで暮らすのが一番だと思います。でも…今のこ

 の子を泣かせたくないんです、ごめんなさい」

竜生「ママ」

   美代子、膝をついて竜生に顔を寄せる。

   竜生、美代子の頭を撫でる。

竜生「泣かないで、ママ。ぼく、ママがいい。ママと一緒にいたい」

美代子「ありがとう、竜生」

   美代子、竜生を抱きしめる。

   麗子、それを見て苦笑する。

麗子「これはもう、どうしようもありませんね」

   枝里子、心配そうに麗子を見る。

   美代子も麗子を見上げる。

麗子「美代子さん、竜生くんが大切で、泣かせたくないのは私も同じです。母親ですも

 の」

   麗子、膝をつき竜生と目線を合わせる。

麗子「竜生くん、泣かせちゃってごめんね。許してくれる?」

   竜生、小さくうなずく。

   麗子、微笑み竜生の頭を撫でる。

麗子「(美代子に)竜生は私が産んだ子であることは間違いありません。将来的にはこ

 ちらへ戻って、跡を継いでもらいたいと思っていることに変わりはありません。けれ

 ど」

   麗子、美代子を見て微笑む。

麗子「あまり事を急ぎすぎて、竜生に嫌われたら元も子もありませんから」

美代子「それじゃあ」

   麗子、ゆっくりとうなずく。

 

 

※窓と聞いて今回書いた内容か、結婚式で「ちょっと待ったぁ」的なのしか思いつかなかった。貧困な発想です…(笑)