おいでよシナリオの森!

夢はヒーローもののライターです☆

課題「悲しみ」あの人からの手紙

    人 物

 

東 綾子(24)

東 壮一郎(27)

配達員

 

〇街中

   T・1945年・8月

   人通りのない商店街。

   蝉が鳴いている。

 

〇民家

   居間に人が集まりラジオを聞いている。

   ラジオから玉音放送が流れる。

ラジオの声「…然れども朕は時運の赴く所 堪え

 難きを堪へ忍び難きを忍び 以って万世の為

 に…」

 

〇東の家・全景

 

〇同・庭

   東綾子(24)がタライで洗濯している。

 

〇同・居間

   ラジオが流れている。

   隣に東壮一郎(27)と綾子の二人の写真。

 

〇同・庭

   綾子、洗濯物を物干しざおに干している。

   汗が流れてきて拭う。

   ふと玄関先に人影を見つける。

   物干しを中断して玄関に向かう。

 

〇同・玄関

   綾子、庭からやってくる。

綾子「どちら様…」

   綾子、立ち止まり驚く。

   軍服姿の東が立っている。

   綾子に気付き振り返る。

   綾子、東を上から下まで何度も見る。

綾子「壮一郎さん…?」

   東、笑顔を見せる。

東「綾子」

   綾子、堪えきれなくなったように泣き出

   し、東へ駆け寄る。

綾子「壮一郎さん!」

東「綾子」

   東、綾子を受け止め、力強く抱きしめる。

   綾子、泣きながら東の胸に顔をこすりつ

   け、目いっぱい背中に腕を回す。

東「ただいま」

   しばらく抱き合ったままの二人。

 

〇同・台所

   鍋に湯が沸いている。

   綾子、鼻歌を歌いながら大根を切ってい

   る。

 

〇同・居間

   壮一郎、座って部屋を見回している。

東「実家には帰らなかったのかい」

   東、ラジオに近付き、そっと電源を切る。

   隣の写真を手に取り眺める。

綾子の声「ええ。この家を守ろうと決めていま

 したから」

   東、写真をジッと見つめている。

   綾子、お盆に食事を持ってやって来る。

綾子「お待たせしました」

   東、写真を戻し席に座る。

綾子「せっかく壮一郎さんが帰ってきてくれた

 のに、あまり出せるものがなくて」

   綾子、麦飯と大根の煮物、大根の葉のみ

   そ汁を出す。

東「いや、君が作ってくれたものだからいいん

 だ。いただきます」

   東、大根を食べて味わう。

綾子「どうですか?」

東「やっぱり綾子の料理だ。旨いよ」

綾子「よかった!」

   東、食事を続ける。

綾子「あら、私ラジオ切っちゃったかしら」

   綾子、立ち上がりラジオに近付こうとす

   る。

   東、綾子の手を掴んで引き止める。

東「いいんだ、消しても」

綾子「え?でも」

東「いいんだ」

綾子「そうなのですか…?」

   綾子、東の隣に座る。

 

〇同・全景(夜)

   風呂場の窓から湯気が漏れている。

 

〇同・寝室(夜)

   綾子、布団を敷いている。

   二組目を広げ、笑顔になる。

東の声「あがったよ」

綾子「あ、おかえりなさーい」

   綾子、枕を並べると部屋を出ていく。

 

〇同・居間(夜)

   手拭いで頭を拭いている東。

   綾子が入ってくる。

東「なんだ、ずいぶん楽しそうだな」

綾子「布団を二組敷いたのが久しぶりで、なん

 だか嬉しくて」

東「そんなことで嬉しいのか」

綾子「当然です」

東「そうだな、悪かった。あぁでも、二組も出

 さなくて良かったんじゃないか?」

綾子「どうしてですか?」

東「今夜は君を抱いたまま寝たいから」

綾子「やだ、壮一郎さんたら」

   綾子、恥ずかしそうに東を叩く。

   東、笑う。

 

〇同・寝室(夜)

   東、電気を消すと、綾子が入っている布

   団に入る。

   見つめ合い微笑んで布団の中で抱き合う。

東「おやすみ、綾子」

綾子「おやすみなさい」

   綾子、目を閉じる。

 

〇同・全景(夜)

   月が高く上がっている。

 

〇同・寝室(夜)

   綾子の寝息が聞こえる。

   東、綾子を抱いたままジッと宙を見つめ

   ている。

 

〇同・全景

   蝉が鳴いている。

 

〇同・庭

   綾子、鼻歌を歌いながらタライで洗濯を

   している。

 

〇同・全景

   配達員が駆け足でやってくる。

 

〇同・玄関

   玄関前に立つ配達員。

配達員「東さーん、郵便です」

   扉を叩く。

配達員「東さーん」

 

〇同・庭

   声に気付いて顔を上げる綾子。

綾子「はぁい、ちょっと待ってください」

   立ち上がる綾子。

綾子「壮一郎さん、いないのかしら」

   玄関へ向かう。

 

〇同・玄関

   庭からやって来る綾子。

綾子「お待たせしました」

配達員「あ、郵便です」

   配達員、手紙を差し出す。

綾子「ご苦労様です」

   綾子、受け取る。

   配達員、一礼して走り去っていく。

   綾子、封筒を見る。

 

〇同・居間

   軍服を着た東が目を閉じて座っている。

   ゆっくりと目を開ける。

 

〇同・玄関

   綾子、封筒を開ける。

   綾子の表情が強張る。

綾子「うそ、だって」

   綾子、慌てて部屋に入る。

 

〇同・居間

   駆け足で入ってくる綾子。

綾子「壮一郎さん」

   東、綾子を見上げる。

東「手紙が来たか」

綾子「変な手紙が来たんです。間違った手紙が」

東「いや、間違いではない」

   東、立ち上がり綾子に背を向ける。

綾子「…どうしてまたそれを着ているんです?

 帰って来たのに」

東「もう行かなければならないのだ」

綾子「いやです、いや」

   綾子、東にすがる。

   東、綾子をはがし向かい合う。

東「最後に君を抱きしめたかった。これは私の

 わがままだ」

綾子「壮一郎さん」

東「何もしてやれなかった私をどうか許してくれ」

   綾子、何度も首を横に振る。

   東、綾子を抱きしめる。

東「お別れだ、綾子」

   綾子、震えながら東を抱きしめ返す。

   互いを抱きしめる力が強くなる。

   東の体が薄く透き通っていく。

   最後には消えて、宙を抱いたポーズの綾

   子だけが残る。

   綾子、泣きながら膝をつく。

   綾子の手から手紙が落ちる。

   手紙は戦死公報。

   3ケ月前に東が戦死したことを伝える内

   容。

   綾子、号泣する。

   

            

南こうせつ氏の「あの人からの手紙」という楽曲がちょうどいいのでは?と思い題材に選びました

ほんの少しの昭和の描写のために色々調べたり、楽しかったです