おいでよシナリオの森!

夢はヒーローもののライターです☆

課題「湖」沈む、漬かる

    人 物

溝口秀一(55)(60)

溝口佳恵(53)(58)秀一の妻

 

〇森・遊歩道

   木々が生い茂る遊歩道。

   ハイキングスタイルの溝口秀一(55)、溝口佳恵(53)が歩いていく。

   佳恵、道端の花に気を取られて足を止める。

   先を行く溝口、佳恵がいないことに気付き振り返る。

溝口「どうした、疲れたか」

   佳恵、顔を上げ笑顔で立ち上がる。

佳恵「いいえ、大丈夫」

   佳恵、溝口に追い付き並んで歩き始める。

佳恵「可愛いお花がいっぱいね。やっぱり自然ていいわ」

溝口「勝手に摘んだらいかんぞ」

佳恵「わかってます、大丈夫大丈夫」

   溝口、ポケットからカメラを取り出して佳恵に渡す。

溝口「写真撮るだけにしとけ」

佳恵「はいはい」

〇湖

   森が開けて湖が見えてくる。

   澄んだ青い湖。

   溝口と佳恵、嬉しそう。

佳恵「素敵ねぇ」

溝口「絶景だな」

   佳恵、湖畔に駆け寄り手で水を掬う。

溝口「落ちるなよ」

佳恵「大丈夫大丈夫」

   溝口、地面に敷物を敷いてリュックから弁当を出す。

溝口「飯食おう、飯」

   佳恵、立ち上がる。

佳恵「はいはい」

   佳恵、駆け寄る。

   佳恵の手作り弁当を開く。

   溝口、漬物を取って食べる。

   佳恵、隣で水筒のお茶を入れている。

溝口「うまい」

佳恵「上手に漬かってるでしょう」

溝口「腕上げたなぁ」

佳恵「こだわってますから」

   溝口、うなずきながら漬物を食べる。

   ×  ×  ×

   湖の湖面が風で揺れている。

   佳恵、おにぎりを食べながら湖を眺めている。

佳恵「美しいわねぇ、本当に」

溝口「そうだな」

   溝口、黙々と弁当を食べている。

佳恵「なんだか私、ここで生まれてきたって気がする」

   佳恵、溝口を見て笑顔。

佳恵「連れてきてくれてありがとう」

溝口「なんだ改まって」

佳恵「ずっと来たかったから」

溝口「そうか」

   溝口、お茶を飲む。

佳恵「私が死んだら」

溝口「ん?」

   溝口、佳恵を見る。

   佳恵、穏やかな顔で湖を見つめたまま。

佳恵「私がいつか死んだら、この湖に沈めてくださいな」

溝口「なんだ、海に骨を撒くみたいな、アレか」

佳恵「ううん、骨だけじゃなくて。私の体をそのまま、ここに沈めてほしいのよ」

   溝口、また弁当を食べ始める。

溝口「そりゃ現実的じゃないな」

佳恵「そうかしら」

溝口「そうだろう。遺体をどうこうしたら…ほら、俺が捕まっちまう」

佳恵「面倒な世の中だわねぇ」

溝口「ま、せめて散骨くらいは考えておいてやるよ」

佳恵「お願いしますね」

   溝口、佳恵をチラリと見る。

   佳恵、ニコニコと溝口を見ている。

   溝口、視線を逸らす。

溝口「そもそも、俺より先に死ぬんじゃない」

   青空をトンビが飛んでいく。

   トンビが高く鳴いている。

 

〇溝口家・全景

   庭に大きな桜の木が生えていて、満開。

 

〇同・縁側

   総白髪になった溝口(60)、縁側に座り桜の木を見上げている。

   奥の部屋には布団が敷いてあり、白髪の佳恵(58)が眠っている。

   枕元には大量の薬の袋と水差し。

   佳恵、顔色が悪く呼吸も弱い。

   溝口、傍らに置いてあった湯飲みを取ってお茶を飲む。

溝口「この桜をお前と見るのも、何回目かな」

   佳恵、ゆっくりと目を開けて桜を見る。

溝口「これを植えたのは、お前が嫁に来たときだったかな」

佳恵「違いますよ…」

   佳恵、弱々しく笑う。

佳恵「勝彦が産まれた時です」

溝口「そうだったか。まぁ一年くらいしか変わらんからいいだろう」

佳恵「本当にあなたは、そういう所あるわねぇ」

溝口「細かいことはどうでもいいんだ。俺とお前が、ずっと一緒に見てきたという事実

 を確認しただけだ」

佳恵「そうですね」

   佳恵、微笑む。

   溝口、振り返り部屋に戻ってくる。

   佳恵の枕元に座り髪を撫でる。

溝口「苦しくないか」

佳恵「ええ…。あなたと桜を見たからかしら」

   溝口のお腹が鳴る。

   佳恵、小さく笑う。

佳恵「嫌だ、あなたったら。お昼ご飯食べてないの?」

溝口「仕方ないだろう…お前が寝ているから、在処がわからなかったんだ」

佳恵「何の在処?」

溝口「漬物。もう食べきってしまった」

   溝口、佳恵を見つめる。

溝口「早く治して漬物を作ってくれ。あれがないと飯を食った気にならん」

   佳恵、笑顔になる。

佳恵「そうですね、頑張るわ。…あぁでも、今日はちゃんとご飯食べてくださいな。と 

 りあえず他のお漬物で我慢してね」

   溝口、不満そうに立ち上がる。

溝口「…わかった。お前にも何か、持ってこようか」

佳恵「あら、優しい。じゃあ白湯をお願い」

溝口「白湯だな。待ってろ」

   溝口、立ち上がり台所へ歩いていく。

   佳恵、その背中を見つめながら

佳恵「秀一さん」

   溝口、驚いた顔で振り返る。

溝口「なんだ、珍しく名前で」

佳恵「(笑って)久しぶりに呼んでみたくなったのよ」

   溝口、照れ臭そうに頭を掻きつつ

溝口「とにかく、大人しく待ってなさい。佳恵」

佳恵「はい」

   溝口、台所へ入っていく。

   佳恵、その背中を笑顔で見送る。

   ふすまが閉じられる。

   佳恵、顔を天井へ向ける。

   笑顔のまま、ゆっくりと目を閉じる。

   深く深呼吸をする。

佳恵「幸せだったなぁ」

   佳恵の髪が風で揺れる。

   ×  ×   ×

   湯飲みを持った溝口が戻ってくる。

   佳恵を見て足を止める。

   立ち尽くし佳恵を見つめる。

   佳恵、穏やかな表情で息を引き取っている。

   佳恵を見つめている溝口の背中。

 

〇森・遊歩道

   木々が生い茂る遊歩道。

   ハイキングスタイルの溝口、同じハイキングスタイルを着せた佳恵の遺体を背負  

   って歩いていく。

   途中、道端の花に気付き足を止める。

溝口「今日だけは許してくれよ」

   溝口、膝をつき花を数本摘み取る。

 

〇湖

   ボートを漕いで湖の中心部へ向かう溝口。

   横たわる佳恵は胸のあたりで指を組み、

   先程摘んだ花を持たされている。

   溝口、汗だくになりながらボートを漕ぎ続ける。

   中心辺りに着くと漕ぐのをやめ、よろめきながら佳恵を抱き上げる。

   抱き上げた佳恵をジッと見る溝口。

溝口「軽いなぁ。お前、こんなに軽かったか?」

   佳恵、穏やかな表情。

   溝口、淋しそうな笑顔を浮かべる。

溝口「約束を果たしてやろうな、佳恵」

   溝口、佳恵の額にキスをする。

   溝口、佳恵の体を水の中へ横たえるとそっと手を放す。

   佳恵の体がゆっくりと水の中へと沈んでいく。

   溝口、目を閉じてずっと手を合わせている。

   湖面は穏やかに揺れている。

   佳恵の体が見えなくなる。

   溝口、そっと目を開く。

溝口「これから俺がどこへ向かうことを、お前は望むんだろうな」

   溝口、携帯を取り出して電話をかける。

   呼び出し音を聞いている間、満足そうな笑みを浮かべている溝口。

   呼び出し音が途切れる。

溝口「もしもし、勝彦か?お前に伝えたいことがあってな…」

 

 

※枚数の関係上書いてませんが、この後溝口は自首します。

 犯罪なので難しいかも…と指摘されてしまったので、その辺もフォローするつもり

 で。

 FF7のあのシーンやガンダムSEEDのあのシーンがモデルです(笑)