おいでよシナリオの森!

夢はヒーローもののライターです☆

課題「死」その手を取って

    人 物
四谷あいり(14)中学生
四谷あかり(40)あいりの母
大原警部(43)刑事
小村刑事(25)大原の部下
看護師(30) 

〇四谷家・全景(夜)
   ボディラインの出たワンピースを着て派
   手な化粧とアクセサリーを身に着けた四
   谷あかり(40)が千鳥足で歩いてくる。

〇同・玄関(夜)
   玄関のライトが消えている。
   あかり、ドアを開けようとするが開かな
   い。 
   ドアを乱暴に叩く。
   ブレスレットがジャラジャラと音を立て
   る。
あかり「あいりー!開けなさーい。お母さんが
 帰って来たわよ。あいりー!」
   両手で叩く。
   ライトが点いて鍵が開く。
   パジャマ姿の四谷あいり(14)が顔を出す。
あいり「大声出さないでよ、近所迷惑でしょ」
あかり「あんたが鍵なんかかけてるからよ」
   あいり、あかりを押し退けて中に入る。

〇同・リビング(夜)
   部屋の電気が点いてあかりが入ってくる。
   鞄を放り投げ、ソファに寝転がる。
   あいりが入口に立つ。
あかり「何か作って。食べるもの」
あいり「今から?私もう寝たいんだけど」
   あいり、壁掛け時計を見る。
   時間は1時。
あいり「明日テストなの。中間試験」
あかり「だから何よ。普段からちゃんと勉強し
 てれば怖くないでしょ。一夜漬けなんて意味
 ないわよ」
あいり「こういう時だけ正論言って」
あかり「いいから早く作りなさいよ!」
   あかり、バッグを投げつける。
   あいり、ぶつぶつ文句を言いながら出て
   いく。
   あかり、寝転んだままスマホを見る。

〇同・キッチン(夜)
   あいり、湯を沸かし始める。
   ポケットから単語帳を取り出して開く。

〇同・リビング(夜)
   あかり、スマホを持ったまま寝ている。

〇同・キッチン(夜)
   あいり、お盆にご飯・梅干し・急須・箸
   を載せてキッチンを出る。

〇同・リビング(夜)
   あかりが寝ている。
   あいりがお盆を持って入ってくる。
あいり「お母さん、できたよ」
   あいり、あかりが寝ているのに気付く。
   テーブルにお盆を置いてあかりを揺する。
あいり「起きて。お茶漬け用意したよ。ねえ」
あかり「うぅん…」
あいり「ねえ、お母さんてば」
あかり「うーん、うるさい」
   あかり、寝返りを打つ。
   あいり、再びあかりを揺する。
あいり「起きてよ。食べたかったんでしょ?起
 きて!」
   あかり、顔を歪めて思い切り手を振る。
あかり「うるさいってば寝かせてよ!」
   あいり、あかりの腕にぶつかる。
   ブレスレットが音を立てる。
あいり「いたっ」
   あいりの頬に切り傷ができる。
   あかり、寝息を立てる。
   あいり、あかりを見つめる。
   あいり、唇を噛んで部屋を出ていく。
   電気が消える。

〇同・全景(朝)
   頬に絆創膏、制服を着たあかりが出てい
   く。

〇同・全景(夕)
   制服を着たあかりが帰ってくる
   
〇四谷家・玄関
   あいりが入ってくる。
あいり「ただいま!」
あかりの声「おかえりー」

〇同・リビング
   ソファに寝そべっているあかり。
あかり「やっと帰って来た。何か作ってよ、あ
 んたのせいで腹ペコなの」
あいり「お茶漬け用意したでしょ」
あかり「あんな冷めてまずいもの食べれるわけ
 ないじゃない」
   テーブルの上には少しだけ食べてあるお
   茶漬けとお菓子の袋が散乱している。
あいり「明日もテストなの。ご飯くらい自分で
 用意して」
あかり「じゃあ食べに行くよ。用意して」
   あかり、立ち上がる。
あいり「は?テストだって言ってるでしょ」
あかり「早く用意しろって言ってんのよ」
   あかり、服を脱ぎながらドアに向かう。
   あいりとすれ違いざま、あいりを見て
あかり「何その絆創膏。ダッサ」
   そのまま出ていく。
あいり「誰のせいだと思ってんの」

〇住宅街(夕)
   あかりの後ろをあいりがうつむいて歩い
   ている。
あかり「何食べようかな。やっぱり寿司かな。
 あーでも無難にラーメンも捨てがたい」
あいり「テスト中だって言ってんのに」
あかり「いつまでもうるさいよ」
   あいり、あかりを睨みつける。
あかり「なによ、その顔」
   あいりの後ろ、遠くからトラックがフラ
   フラと走ってくる。
   あかり、トラックに気付く。
   トラックの運転手、目を閉じて苦しそう
   な様子。
   トラックが歩道に乗り上げながら走って
   くる。
   あかり、表情が強張る。
   トラックの運転手、倒れこむ。
   ハンドルに頭がぶつかり激しいクラク
   ョンの音。
   運転手の足がアクセルを踏み込む。
   驚いて振り返るあいり。
   トラックが猛スピードで迫ってくる。
   あかり、あいりを思い切り車道側へ突き
   飛ばす。
   あいり、車道に倒れこむ。
   トラック、歩道の柵に激突して停車。
   あいり、ヨロヨロと起き上がる。
あいり「な、何が起きたの…」
   あいり、トラックが大破して停まってい
   るのを見る。
   茫然とするあいり。
   通行人が驚いて見ている。
   タイヤのすぐ傍、あかりが倒れているの
   に気付く。
あいり「お母さん」
   あいり、慌てて駆け寄る。
   あかり、頭から血を流してぐったりと目
   を閉じている。
   あいり、あかりの肩を揺する。
あいり「ちょっと、ねぇ起きて」
   あかり、うっすらと目を開ける。
あかり「あいり、あんたケガは…?」
あいり「どこもない」
あかり「そっか…よかった…」
   あかり、満足そうに微笑む。
あいり「お母さんこそ、こんな所で倒れててビ
 ックリしたんだけど」
   あかり、動かない。
あいり「お母さん?」
   あかり、微笑んだままこと切れている。
   あいり、あかりを見つめたまま固まる。
   あかりの手があいりの手をにぎっている
   救急車のサイレンが聞こえる。

〇大学病院・全景(夕)

〇同・あかりの個室(夕)
   あかりが包帯を巻いた姿でベッドに横に
   なっている。
   あいり、横に座ってジッと明かりを見て
   いる。

〇同・あかりの個室前(夕)
   看護師(30)が大原警部(43)と小村刑事
   (25)を連れて個室の前まで来る。
看護師「こちらです。でも、話せるかどうか」
大原「どうもありがとう」
   大原、会釈する。
   看護師、会釈を返して去っていく。
   大原、小村を軽く小突く。
小村「自分がですか」
大原「早くしろ」
   小村、嫌そうな顔をして扉をノックする。
小村「お邪魔しまーす」
   小村、扉を開ける。

〇同・あかりの個室(夕)
   あいり、動かない。
   大原と小村、入ってくる。
小村「あの、今回は何と言ったら…」
大原「四谷あいりさんだね。警察なんだけど、
 事故のこと、ちょっと聞いてもいいかな」
   大原、あいりに近付く。
   あいりを覗き込む。
   あいり、頬の絆創膏を擦っている。
あいり「なんであんなことしたの、なんで」
   あいり、焦点の合わない目で呟く。
あいり「いつものお母さんならするわけないじ
 ゃん、なんでこんな時だけ…」
   あいり、絆創膏を強く擦る。

 

※どんな毒親でもこどものことは遺伝子レベルで愛してるんです。

 と、思いたいのです。私は。

 その愛は、こどもを苦しめてしまうかもしれないけれど。